(ブルームバーグ):トランプ米大統領と側近らは、イランとの戦争を正当化するために複数のレッドラインを掲げてきた。しかし17日の記者会見で、トランプ氏は自ら掲げてきた「譲れない一線」を事実上取り下げた。
暫定和平合意に同意した決断について、トランプ氏はイランが決して核兵器を保有しないようにするとの従来の主張を繰り返した。一方で、イランにはウラン濃縮を行う権利があり、弾道ミサイル開発も認められるべきであり、凍結資産として拘束されている数十億ドルへのアクセスも認めるべきだとの考えを示した。
これら三つの問題は、長年にわたり対イラン政策を巡る議論の中心だった。その起点は、オバマ大統領時代の2015年にイランと締結した核合意にさかのぼる。
それだけではない。トランプ氏はこれまで、オバマ氏や歴代大統領がイランの脅威を抑えるのに失敗した理由として、こうした問題を繰り返し挙げていた。
状況は大きく転換した。ペンス元副大統領やヘイリー元国連大使といった対イラン強硬派は、トランプ氏の新たな構想に失望を表明した。
「トランプ氏は、かつてオバマ氏を批判した政策を自ら進めている」と、ブッシュ(子)政権および第1次トランプ政権で国務省顧問を務めたクリスチャン・ホイットン氏は指摘する。
「本人が本気かどうかは別として、軍事作戦を再開すれば世界恐慌以来最悪の景気後退を引き起こすため、再び軍事行動には踏み切らないというメッセージをイラン側に伝えた」と述べた。
一方、全米イラン系米国人評議会は、トランプ氏の姿勢を歓迎した。
同評議会は声明で、「この合意はイランへの譲歩ではない。成果を上げられず、結果として戦争を招いた長年の強圧政策を改めるものだ」と述べた。
その数時間後、トランプ氏はパリ近郊のベルサイユ宮殿で、戦争終結とホルムズ海峡の再開を定めた覚書に署名した。
もっとも、トランプ氏には強硬姿勢を示した後に数日、場合によっては数時間で方針を転換してきた過去がある。また、今回の暫定合意は60日間の交渉への道を開くものであり、トランプ氏はまだ具体的な譲歩を行っていない。そのため、対イラン強硬派も過度に懸念する必要はないかもしれない。
トランプ政権はまた、イランが経済的・軍事的に大きく弱体化したことで、イランの脅威を抑え込むという目標を達成したと主張している。さらに、指導部がその道を選ぶのであれば、イランが世界経済へ再統合される可能性も開かれたとしている。
三つの主要争点で姿勢を転換
しかし、記者会見には大統領支持者ですら驚く内容が少なくなかった。
その一例がイランの弾道ミサイル計画だ。米国とイスラエルが2月下旬にイランとの戦争を開始してから数日後、ヘグセス国防長官は、米国の目標はイランによるミサイルの脅威を破壊することだと述べていた。
しかしフランスのエビアンで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の終了に合わせた記者会見で、トランプ氏はその考えを意に介さなかった。トランプ氏は、自身が「好きな連中」と呼ぶ側近や助言者らについても、弾道ミサイル問題にこだわり過ぎていると一蹴。「他国も保有している以上、一定のミサイルは必要になるだろう」との見解を示した。
「ミサイルは問題ではない。局地的な被害は与えるが、地球を吹き飛ばすわけではない」とも語った。
トランプ氏は核濃縮についても同様の姿勢を示した。トランプ氏をはじめ、イランに批判的だった共和党議員らは長年、イランが核兵器を望んでいないと主張するのならば、なぜウラン濃縮を認める必要があるのかと疑問を呈してきた。ルビオ国務長官も5月、FOXニュースで、イランは濃縮を断念する必要があると述べていた。
だが17日、ルビオ長官を前にして、トランプ氏はもはやその考えに同意していないことを明確にした。
トランプ氏は、「周辺国がそれを保有しているのに、発電などの目的で彼らに保有を認めないというのは少し難しい」と述べ、「少しは常識を使わなければならない」と語った。
トランプ氏が越えた三つ目のレッドラインは、イランの凍結資産に関するものだった。イランは海外口座に数十億ドル規模の資産を保有しているが、米国は銀行による資金解放を阻止してきた。その理由の一つは、イランがレバノンの武装組織ヒズボラやガザのイスラム組織ハマスといった代理勢力を支援する主要なテロ支援国家であり、再び同様の資金供与を行う可能性があるというものだった。
トランプ氏は、「それはわれわれの金ではなく、彼らの金だ。ある時点でわれわれが凍結した」と述べ、「おそらく返還しなければならないだろう。返還しなければ、誰も二度とドルに投資しなくなる」と語った。
この考え方には、共和党のクルーズ上院議員をはじめとする大統領の熱心な支持者の一部から強い反発が出た。
クルーズ氏はインタビューで、「われわれを殺そうとする神権政治の狂信者たちに数十億ドルを与えることが良い考えではないことは、歴史から明らかだ」と述べた。
原題:Trump Blows Through His Iran Red Lines in Justifying Peace Deal(抜粋)
--取材協力:Aidan Williams.
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