(ブルームバーグ):故安倍晋三元首相がインド議会で、「ここに自由を、繁栄を追い求めていくことこそは、われわれ両民主主義国家が担うべき大切な役割だとは言えないでしょうか」と演説してから、間もなく20年になる。安倍氏が初めて「インド太平洋」と呼んだ地域で、航行の自由を守ることを日印両国の課題と定義した。
米国が関与を弱め、最近では重要な海峡で封鎖措置を講じる一方、中国が「第一列島線」への圧力を強める中、航行の自由を確保する緊急性は一段と増している。
安倍氏の構想は完全には実現しなかった。日本がインドなどアジア諸国と進めてきた取り組みには常に自己制約的な限界があったためだ。しかし、高市早苗首相がこうした制限の一部を取り払ったことで、状況は変わる可能性がある。
防衛装備移転三原則と運用指針の改正を決定したことで、殺傷能力のある武器輸出を巡る制限が緩和され、日本は艦船やミサイルを含む先端装備品を供給し、パートナー国の防衛をより直接的に支援できるようになった。
日本が満たそうとしている需要は大きく、長らく蓄積されてきたものだ。最近では、三菱重工業が建造する「もがみ」型護衛艦の能力向上型3隻を購入するとオーストラリアが発表した。
小泉進次郎防衛相は大型連休中にフィリピンとインドネシアを訪問し、新たな契約が発表される公算が大きい。インドネシアも改良型護衛艦に関心を示しているとされる。
韓国の台頭
本来であれば、この動きは数年前に始まるべきだった。当時は各国財政への圧力も今ほど強くなかった。現在では債務水準が上昇し、限られた外貨を高価な従来型装備品に充てるべきか、あるいは将来の戦闘の行方を左右するとみられるドローン(無人機)や自律型兵器に振り向けるべきか、各国の防衛当局者らは難しい判断を迫られている。
その間に、アジアの防衛支出を巡る新たなチャレンジャーが台頭した。韓国の李在明大統領は先週、インドの首都ニューデリーを訪問。両国はハンファエアロスペースのK9自走砲を共同生産しており、韓国のメーカー各社はさらなる展開を狙っている。
韓国は武器輸出ランキングで急速に地位を高めているが、防衛輸出のほぼ半分はポーランド向けで、現代ロテムのK2戦車360両の受注などが含まれる。価格の柔軟性と品質を兼ね備えた韓国製装備品は、アジア各国の軍にとっても魅力的とみられ、フィリピンはすでにFA-50軽戦闘機や新たな艦艇を発注している。
製造業の多くの分野で、日本企業は機動力の高い韓国にアジア市場のシェアを奪われてきた。契約を迅速にまとめる体制を整えなければ、防衛分野でも同様の事態が起こりかねない。
日本が大きな役割を
その象徴がUS-2飛行艇だ。自衛隊が運用する装備として初めて輸出が検討されたもので、民間の捜索救難にも使用可能であるため、従来の武器輸出規制下でも例外的に認められていた。
インドは少なくとも2011年から購入を視野に協議していたが、当初は価格が高過ぎたほか、技術移転や共同生産の条件もまとまらなかった。しかし、根本的な問題は日本の経験不足にあった。アナリストの長尾賢氏が当時指摘したように、日本側には責任ある担当者が存在しなかった。
日本は売り込む力を早急に身に付ける必要がある。問われているのは一部企業の利益にとどまらない。関与が不十分で、場合によっては対立的ですらある米国との共存にインド太平洋地域全体は適応しようとしている。
米国はかつてインド太平洋の安全保障体制の要であり、正式な同盟や非公式な枠組みの中心に位置していた。その結束を支えていたのは、共通の装備、長期の防衛契約、共同開発、そして統合された兵器供給網だった。
アジア諸国がこうした体制を再構築しようとするなら、日本がより大きな役割を果たす必要がある。安倍氏のインド太平洋構想は、自力で防衛を維持できるパートナーを軸に構築されていたが、その背後には米国が不足部分を補うという暗黙の前提があった。
こうした前提はもはや崩れつつあり、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想そのものを揺るがしかねない。この地域には新たな結束の軸が必要だが、選択肢はそれほど多くない。
韓国の装備品は一助となるが、日本は戦略を担う存在にとどまらず、供給者にも調整役にもならなければならない。高市首相が動きの遅い企業や慎重な官僚を迅速に動かすことができれば、師である安倍氏の構想を部分的にでも維持し、状況を改善できる余地はある。
(ミヒル・シャルマ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ニューデリーのオブザーバー・リサーチ財団のシニアフェローも務めています。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Japan Can Help Asia Live Without the US: Mihir Sharma(抜粋)
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