11日の米国株式市場では、S&P500種株価指数が続伸し、最高値を更新した。人工知能(AI)投資拡大への懸念からオラクル株が大幅に売られ、当初はリスク資産からの資金引き揚げが加速したが、その後安値拾いの買いが入った。

S&P500種は0.2%高で終了。ハイテク株主導の強気相場が続く中、長らく出遅れていたダウ工業株30種平均と小型株中心のラッセル2000指数も、そろって最高値を更新した。

一時1.6%安だったナスダック100指数も下げを縮小。だが、AI投資ブームの先行きを占う先行指標とされるオラクルの決算が失望を誘う内容となったことで、地合いは改善していない。引け後のブロードコムの決算も意識された。

オラクルの株価は約11%急落し、1月以来の大幅安。前日発表した決算は、クラウド売上高が予想を下回ったほか、2026年の設備投資見通しを150億ドル増の500億ドルに引き上げたことが嫌気された。

AI関連の大型株に対する警戒感は根強く、エヌビディアは約1.5%下落。ハイテク7社「マグニフィセント7」に関する指数も下げた。

オラクルの決算を受けてハイテク株のバリュエーションや、AIインフラへの巨額投資が本当に収益押し上げにつながるのかといった懸念が再燃した。今年のS&P500種の力強い値上がりをけん引してきたのはハイテク株だが、米経済の見通しが底堅い中で、AI投資への警戒から他分野に資金を移す動きも出ている。

パンミュール・リベラムのストラテジスト、スザナ・クルス氏は「市場はAI関連投資にかなり神経質になっており、投資拡大の兆しが熱狂を巻き起こしていた2025年半ばとは対照的だ」と述べた。また「オラクルはこの流れの中で最も脆弱(ぜいじゃく)な存在となっている。投資の大部分を借り入れで賄っているためだ」と語った。

オラクルは前日の引け後に決算を発表。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ決定とパウエル議長の楽観的な経済見通しが追い風となり、S&P500種は最高値に接近して終えていた。

0.25ポイントの利下げ決定に対しては3人の反対票が出たが、FRB当局者が来年以降の追加緩和に含みを残したことで安心感が広がった。FRBの新たな金利見通しでは来年の利下げ予想は1回にとどまるが、市場は引き続き2回の利下げを織り込んでいる。

カイロス・パートナーズのポートフォリオマネジャー、アルベルト・トッキオ氏は「オラクルの影響はFRBより大きかった。これはAIという単一のテーマに極度に集中していること、それが市場を主導している現状を如実に物語っている」と指摘。その上で「だからといってAIが終わった、あるいはバブルだという意味ではない。ただ、より広い視野で見る必要がある」と語った。

パウエル議長は、雇用市場を安定させるために十分な措置を講じる一方、物価圧力を引き続き抑制するだけの高い水準に金利を維持しているとの見方を示した。FRB当局者の経済見通しでは、2026年の成長率見通し(中央値)を9月時点の1.8%から2.3%へ上方修正する一方、来年のインフレ率については前回予想の2.6%から2.4%に鈍化すると見込んでいる。

ロンバー・オディエ・インベストメント・マネジャーズのマクロ責任者、フロリアン・イエルポ氏は、「FRBによる『タカ派的だが強気な』利下げが、2026年に成長は力強さを増し、より速いペースでインフレが鈍化するとの見方を後押しした」と話す。その上で「利下げは続くが、もはや自動的ではない。これは通常、株式にとって望ましい環境だ」と語った。

米国債

米国債相場では、中長期ゾーンの利回りが上昇。FOMC会合後の上昇基調が総じてこの日も続いた。

10年債利回りは一時4.1%と、約1週間ぶりの低水準をつけた。前日は米短期金融市場の逼迫(ひっぱく)緩和に向けて財務省短期証券(Tビル)の買い入れ開始が発表されたほか、パウエル議長がFOMC後の会見で0.25ポイントの利下げ決定に3人の反対票が出たことを重視しない姿勢を示し、国債相場が押し上げられた。

朝方発表された先週の米新規失業保険申請件数は新型コロナ禍以来の大幅増を記録した。当該週は休暇シーズンの前後で振れが大きくなる傾向があるものの、国債相場の支援材料となった。

また30年債入札(発行額220億ドル)では最高落札利回りが4.773%と、入札前取引(WI)水準の4.774%を下回り、堅調な需要を示す内容となった。

Photographer: Bloomberg

短期金融市場はFOMC会合後、来年初となる0.25ポイントの利下げが3月に行われるとの見方を約50%織り込んだ。来年合計では2回の利下げを見込む。

ウェリントン・マネジメント・カンパニーのポートフォリオマネジャー、ブリジ・クラナ氏は同日、今回のFOMC会合について「全方位でハト派的」だと受け止めているとブルームバーグラジオで発言。「FRBが依然として来年の利下げに言及している点は、世界の他の国・地域とは大きく異なる」と語った。

一方、FRBは12日から資金調達市場の逼迫緩和に向け、月400億ドルのTビル購入を開始する。Tビル購入について、ウォール街は来年初め以降に始まると予想していたが、パウエル議長は年末に向けて短期金利が予想以上のペースで上昇していると説明した。

ジェフリーズの欧州担当チーフエコノミスト兼ストラテジストのモヒト・クマール氏は「バランスシートの拡大は重要だ」と指摘。「財務省がTビルや短期債中心の発行に傾いていることを踏まえると、FRBの購入は景気刺激的な効果を持つだろう」と語った。

為替

ニューヨーク外国為替市場では、新規失業保険申請件数の急増を受けて、ブルームバーグ・ドル・スポット指数が国債利回りとともに下落。前日のFOMC会合後のドル売りの流れが続いた。

ドル指数は一時0.4%低下した。オプション市場はFOMC後、およそ2カ月ぶりにドルに対して弱気に転じた。

ブルームバーグ・ドル・スポット指数の1カ月物リスクリバーサルは0.06%のプットオーバーと、10月初旬以来初めてマイナス圏に沈んだ。11月末時点では0.08%のコールオーバーだった。

ドル売りが優勢となる中、円は対ドルで上昇。一時は0.7%高の154円95銭まで買われた。

ノムラ・インターナショナルのストラテジストは、円安が日本政府の政策にとって「アキレス腱(けん)」になる場合、日本当局が長期的な円安を容認しない可能性があるとして、2026年にかけて円買いを推奨した。26年6月までに1ドル=142円50銭をターゲットにしており、これは155円02銭から約9%の円高水準となる。

主要10通貨の中ではスイス・フランの上昇が目立った。スイス国立銀行(中央銀行)が政策金利を2四半期連続でゼロに据え置いたことが背景。インフレ見通しは弱まっているものの、金利を再びマイナス圏に戻す水準には至っていないと判断した。

原油

原油先物相場は反落し、10月以来の安値に沈んだ。米軍によるベネズエラ沖での石油タンカー拿捕など地政学的緊張でアジア時間の取引では上昇していたが、米株市場で一時強まったリスク回避の流れに押された。

市場ではウクライナ和平案の動向も意識されている。紛争が終結すれば、ロシア産原油がより多く市場に流入する可能性がある。

CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニアエネルギートレーダー、レベッカ・バビン氏は「株式相場の軟化やウクライナとロシアに関する報道が原油市場のセンチメントを弱含ませており、ベネズエラ関連のニュースによるショートカバーは限定的だ」と述べた。

国際エネルギー機関(IEA)はこの日、今年と来年の世界の石油市場における供給過剰見通しを数カ月ぶりに下方修正した。需要の回復と供給の伸び鈍化が理由で、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスが生産引き上げに踏み切った5月以降で初めて供給過剰見通しを引き下げた。

エリック・リー氏らシティグループのアナリストは「総じて、2026年の在庫積み増しは2025年より増える見通しだ。ただ、中国の強い需要と地政学リスクの継続により、中国を除いた地域での余剰は比較的抑えられるだろう」と指摘した。

ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物1月限は、前日比86セント(1.5%)安の1バレル=57.60ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント2月限は1.5%安の61.28ドル。

金相場は上昇。米国債利回り低下とドル下落が金の支援材料となった。トレーダーは米政策金利の先行きを意識している。

TDセキュリティーズのバート・メレク氏は米金融政策について、パウエルFRB議長が将来の利下げを巡って多くの曖昧さを残しているものの、来年5月には新たな議長が就任する予定であり、その人物はハト派である可能性が高いと指摘する。

FRBがハト派に傾けば、低金利環境の恩恵を受けやすい金投資にとっては追い風となる。

金スポット価格は年初来で約60%上昇し、年間ベースでは1979年以来の大幅高に向かっている。各国・地域中銀による積極的な金準備積み増しや、国債や通貨からの資金シフトが支えとなっている。また国際調査機関のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、金を裏付けとする上場投資信託(ETF)の金保有量は今年、5月を除いて毎月増加している。

スポット相場はニューヨーク時間午後2時現在、前日比39.43ドル(0.9%)高の1オンス=4268.27ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物2月限は88.30ドル(2.1%)高の4313ドルちょうどで取引を終えた。

原題:S&P 500 Closes at Record as Dip Buyers Step Up: Markets Wrap

Treasuries Gain as Traders Hold to Rate-Cut Bets After Fed

Dollar Extends Post-Fed Losses as Franc Rallies: Inside G-10

Traders Are Dollar Bearish for First Time Since Oct.: FX Options

Oil Settles at Lowest Since October as Market Sentiment Weakens

Gold Gains, Silver Tops $64 as Traders Focus on Fed Rate Path(抜粋)

--取材協力:Neil Campling、Sagarika Jaisinghani.

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