(ブルームバーグ):ロン・カーン氏はウォール街を襲った前回のバブル崩壊以来、人工知能(AI)の可能性について考え続けてきた。
サブプライム危機が迫っていた2007年。アルゴリズム取引が機能不全に陥り、「クオンツ・クエイク」が市場を揺るがす事態となり、その後に訪れる世界的な金融危機の前兆となった。
プリンストン大学とハーバード大学で物理学を修めたカーン氏は、より良い方法があるはずだと考えた。あれから約15年、同氏とブラックロックの同僚らはここにきて成果を上げつつある。
カーン氏と同僚のジェフ・シェン氏、ラファエレ・サヴィ氏は、ブラックロックでAIを活用した取引を担う部門を率いている。具体的には、1100以上の市場シグナルを機械学習やAI技術で解析し、「テーマ別ロボット」を使って買うべき銘柄と空売りすべき銘柄の選別を行う。
システマティック投資として知られる200人規模の同部門はシェン氏とサヴィ氏が統括し、カーン氏がリサーチ部門を率いる。過去2年間に少なくとも400億ドル(約6兆2000億円)の新規資金が流入。現在の運用資産残高は3780億ドルだ。同部門は今週、流動性オルタナティブに焦点を当てた新たな上場投資信託(ETF)を立ち上げた。
シタデルのケン・グリフィン氏ら業界の重鎮の一部は、AIが投資運用者に市場を上回る好成績をもたらす可能性について疑問を呈しているが、ブラックロックの「コンピューター好き博士号集団」は、ウォール街でAI活用の強力な推進役となっている。ブラックロックのシステマティック部門は2024年に過去最高となる10億ドル近い収入を計上するなど、結果を出しているためだ。今年は顧客資金の流入額で記録更新が見込まれている。
同部門の知的な柱であるカーン氏は、投資の未来は優れた運用者と強力な新技術を組み合わせられる者の手にあると話す。
市場や企業のファンダメンタルズに注目する投資家について「本当に将来を見通す能力を持つ人間はごくわずかだ」とカーン氏。「そういう人々の役割がなくなることは決してない」とした上で、「ただ、そうした人材はそれほど多くはない」と語った。
AIやシステマティック投資といった手法を活用することが、今後ますます重要になるという。
足元で、ブラックロックのシステマティック部門は好調だ。株式ファンドは9月までの時点で、過去5年間の約94%の期間で社内のベンチマークを上回った。ブラックロックの従来型アクティブ株式運用チームが市場を上回った割合は約半分にとどまる。
この戦略の大ファンの1人が、ラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)だ。同氏はAIを活用する運用者が市場を上回り得るモデルとして同部門を位置付けている。
低コストのインデックスファンドを多く手がけるブラックロックだが、経営陣は真の変革を促し手数料収入を伸ばす同社の戦略において、システマティック部門を高く評価している。

原題:BlackRock’s Crew of Quant PhDs Are On Track for a Record Year(抜粋)
--取材協力:Hema Parmar.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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