金相場の高騰と個人向け販売の急増により、タイ最大の貴金属取引企業であるフアセンヘンの今年の売上高は、過去最高の5兆バーツ(約24兆5300億円)に達する見通しだ。タナラット・パサウォンセ最高経営責任者(CEO)が明らかにした。

タイ政府の2026年度歳出計画の規模である約3兆8000億バーツを上回る金額だ。低金利と株価低迷が続く中、資産保全の手段として貴金属を選好する住民がいかに多いかを物語っている。

タナラット氏(50)は、1950年にバンコクのチャイナタウン中心部で創業した一族の三代目。同氏によると、地政学的リスクの高まりや米関税政策を背景としたタイ経済の先行き不透明感も、多くのタイ国民が金投資に動く要因になっている。

タナラット氏は、「タイ人には、お金が貯まれば金を買うという考え方が子どものころから根付いている。過去10年間、金のリターンは年10%ほどだったが、昨年は70%に跳ね上がり、人々は殺到した。純粋に乗り遅れたくないという心理だった」と語った。

金はタイの伝統的な貯蓄手段だが、需要の急激な伸びは、経済の不確実性が高まる中で家計資産の中核となりつつあることを浮き彫りにしている。タイ株はマイナスのリターンを記録し、金利は過去最低水準の付近にある。こうした中、金は個人投資家にとって数少ない魅力的な投資対象となっている。

しかし、金ブームはここ数カ月、規制当局の監視強化を招いている。急増する金取引が不正な資金の流れの隠蔽(いんぺい)に使われる可能性や、バーツ相場の変動に影響を与える恐れがあるためだ。政府は透明性向上のため新たな規則を近く導入する方針だが、業者にとってはコンプライアンスコストが増大する。

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のエコノミスト、クリスタル・タン氏は「報告規則の強化は透明性向上と、タイの国際収支における説明不能な資金移動を減らすのに寄与するだろう」とした上で、「ただし、分散型や国境を越えた取引は管轄外となることが多いため、執行は依然として困難を伴う可能性がある」と指摘した。

タイ中央銀行によると、金取引の10-20%がバーツ相場の動きと連動する日もある。情報開示を義務づける新規則がバーツ高を抑制するかは不明だが、チャヤワディー総裁補は「金とバーツの値動きの関連性の根本原因を評価し分析する」ために収集データを活用すると述べた。

原題:Gold Frenzy Puts Thai Trading House on Record Trajectory (1)(抜粋)

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