アップルから離れるのは容易ではない。しかし、それは同社の幹部クラスには当てはまらないようだ。

ブルームバーグ・ニュースは3日、メタ・プラットフォームズがアップルのデザイン担当幹部アラン・ダイ氏を引き抜き、ハードウエアと人工知能(AI)分野の強化を狙う新設デザインスタジオのトップに据えると報じた。アップルでは最近、AI部門責任者のジョン・ジャナンドレア氏も退社したばかりだ。先月にはジェフ・ウィリアムズ最高執行責任者(COO)も去った。

アップルの内情に詳しいマーク・ガーマン記者によれば、人事の入れ替わりは今後も続きそうだ。ティム・クック最高経営責任者(CEO)も引退が視野に入る年齢となり、円滑な退任に向けた準備を進めているとされる。後任人事を巡る観測は一段と強まっている。

こうした人事面での揺らぎは、どの企業でも人材流出を招きかねない。アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏がCEO退任の準備を進めていた局面でも、一部の幹部に同様の動きがみられた。経営トップの交代は、退任に適したタイミングと受け止められることもあれば、別の意味合いで捉えられる場合もある。若手幹部にとっては、新たなトップが独自色を打ち出す局面で評価を得られないリスクを負うより、外部で重要な役割を担う好機と映ることがある。

いずれにせよ、優秀な人材が相次いでアップルを去っている状況は、投資家にとって懸念材料となるはずだ。それでも2025年を通じて、市場の評価は比較的寛容だった。AI分野では出遅れて目標を達成できなかったものの、販売はなお堅調で、消費者の他社製品への乗り換えもあまり目立たなかったためだ。株価は年初来で約13%上昇している。

しかし、2025年がアップルに猶予が与えられた年だったとすれば、2026年はその期限を迎える年となる。魅力的で実用性の高いAIツールの投入に失敗すれば、同社の長期的な見通しには深い影を落としかねない。

AI分野での苦戦にからんだ人材流出は続いているが、人事の動きが一方通行だったわけではない。元グーグルのAI研究者アマル・スブラマニヤ氏はアップルに加わった。同氏はグーグルのAIモデル「Gemini」開発に広く携わった経歴を持つ。アップルは音声アシスタント「Siri」を大幅刷新する計画で、その中核技術に「Gemini」を採用するとみられている。

テクノロジー業界では、次のイノベーションサイクルに備え、前のサイクルが一区切りする時期にトップが退くのが最も効果的とされる。しかし、迫り来るAIの大潮流を見誤ったことで、クック氏はその好機を逃した。仮に2026年に退任することになれば、アップルが勢いを欠く局面で身を引く可能性が高い。

こうした状況の中だけに、ダイ氏の退社は特別な象徴性を帯びる。同氏は、ユーザーがVision Proのヘッドセットを装着する場合でも、iPhoneを操作する場合でも、アップル製デバイス全体が統一されたデザインと使い心地を保つよう監督する役割を担っていた。

開発・デザイン・マーケティングに共通の厳格な理念を共有しながら事業を進める――。こうしたやり方こそがアップルの長年の特徴であり、同社を数十年にわたり強固な地位へと導いてきた。AI対応を急ぐ中で新たな人材が急増すれば、こうした伝統的な一体感が損なわれるリスクがある。

(筆者デーブ・リー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米国のテクノロジーを担当。以前はフィナンシャル・タイムズやBBCニュースの記者でした。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Apple’s Talent Exodus Complicates Cook’s Eventual Exit: Dave Lee(抜粋)

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