日中関係の冷え込みが、訪日客(インバウンド)ビジネスの足かせになる可能性が浮上している。欧米からの訪日客も増える一方、消費額では中国人観光客が全体の約3割を占め、同国客の「モノ消費」への依存は依然として大きい。政治リスクに左右されないためには、物売りビジネスに頼る状況の脱却が急務になりそうだ。

中国外務省が日本への渡航を控えるよう注意喚起をしたことを受け、小規模ではあるが影響が現れている。帝国ホテルによると、法人関連のイベントや宿泊で延期やキャンセルの連絡が入り始めているという。

近鉄グループホールディングスの広報担当者は、傘下の近鉄・都ホテルズ運営のあるホテルで11-12月の予約のキャンセルが、通常時よりも多くなっていると述べた。

産寧坂は多くの観光客でにぎわっていた(24年、京都市)

高島屋の広報担当者は取材に対し、現時点ではどのような影響が出てくるかはまだ不透明だが、政府の対応などに注視すると述べた。同社によると、3-8月の免税売上のうち56%が中国からの客で、ウエートとしては大きい。

観光庁のインバウンド消費動向調査(7-9月速報値)をセグメント別に見ると、買い物代(5427億円)が宿泊費(7797億円)に次いで多く、娯楽等・サービス費は1090億円にとどまる。

そのモノ消費を支えるのが中国と香港だ。買い物代のうち、両者の占める割合は42%に上り、消費額全体で見た場合の33%を上回る。

新型コロナウイルス禍前に見られた「爆買い」は減ったものの、文化体験やイベント参加など体験型の「コト消費」への移行は限定的で、いまだにモノ消費に偏っていることがうかがえる。

政治リスクの影響を受けやすい訪日ビジネスの構造や、欧米など多様な地域からの旅行者の消費ニーズを取り込む必要性が改めて浮き彫りとなった。

大和総研の山口茜エコノミストは「財の部分も大事だが、サービス部分に伸びしろがある」と述べ、コト消費需要の取り込みに一層力を入れる必要があると指摘する。山口氏は米国からの訪日客が増えていることに注目しており、付加価値の高い宿泊・体験サービスで消費を促す仕組みづくりが重要だと話した。

一方日本政府観光局(JNTO)が18日に発表した10月の訪日外客数は、前年同月比約18%増の389万6300人で10月として過去最高だった。中国からの訪日客は同約23%増の71万5700人で、全体の2割弱を占めた。

楽観できない

ツアー客の占める割合は年々減少しており、中国政府の注意喚起が個人の判断に与える影響は限定的だという見方もある。

一方で、中国の交流サイト(SNS)アプリ「小紅書」では、日本旅行をキャンセルする様子を投稿するユーザーも現れている。ある女性は11月24日出発の昆明発東京行き8日間の旅程をキャンセルし、手数料無料のフライトキャンセル画面を共有した。

ソニーフィナンシャルグループの宮嶋貴之シニアエコノミストは、最悪のリスクケースとして2012年の尖閣諸島問題を挙げる。訪日中国人は4カ月で半減し、同問題以前の水準に戻るのに1年以上かかったという。

「SNSを通じて訪日自粛の動きが強まる可能性もあり、楽観はできない」と話す。

(10月の訪日外客数を追加します)

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