米トランプ政権の関税政策に日本企業が頭を抱えている。追加関税が業績の下押し要因になると開示する企業も現れ始めた。対米輸出額の9割弱が関税対象となる中、政府の交渉結果次第では、堅調な日本企業の業績に冷や水を浴びせかねない。

「グループ全体としてこれらの危機を乗り越える」。キヤノンが24日に開いた決算説明会で田中稔三最高財務責任者は米関税影響についてこう述べた。同社は追加関税率が10%で続くとの前提で業績への影響を試算。関税コスト吸収のための値上げに伴う販売減少を見込み、今期(2025年12月期)の業績見通しを下方修正した。

日立製作所の徳永俊昭社長は米国の「自国優先主義への移行は一過性ではないと考えている」とし、地産地消を進めると述べた。米国での調達に関わる直接影響として、純利益段階で350億円のマイナスを今期(26年3月期)業績計画に織り込んだ。コニカミノルタも業績予想には織り込んでいないが、23日時点での影響額を約160億円のマイナスと試算。経費の追加削減や低関税率国への生産シフト検討などで対応する考えだ。

経産省によれば、日本の対米輸出総額1480億ドル(約21兆円)のうち87%がすでにトランプ関税の対象となった。残る医薬品や半導体も個別に検討される見込みだ。足元で輸入自動車がアルミニウム・鉄鋼関税の対象から除外されるほか、部品に対する関税も負担軽減措置がとられることになるなど変化の兆しも見えているが、日本企業の浮沈は30日から再度訪米し、関税交渉を担う赤沢亮正経済再生相の手腕にかかる。

問い合わせ殺到

米政府の政策が二転三転し、中長期的な対応方針を定めるのが難しい--。先を見通しづらい状況の中、日本貿易振興機構(ジェトロ)が4月中旬に開いた関税に関するオンライン説明会では、企業から懸念の声が集まった。

ジェトロが2月に設置した相談窓口には、28日時点で1500件超の問い合わせが集まった。追加関税の適用品目や手続きの詳細に関する内容が多く、ほとんどが4月以降に集中する。

自ら米国での動向把握に注力する動きもある。商船三井は24日、ワシントンで6月に新たな拠点を開設すると発表した。議会や政府機関、国際機関と交流し、情報交換や提言を行う方針だ。

商船三井の橋本剛社長は30日の決算会見で、拠点開設について現政権の関税政策を中心とした貿易政策は海運業界にも大きな影響があるため、「できるだけ正確にかつ早くキャッチしていきたいという狙いが大きくある」と説明した。

米中の貿易戦争により、両国間の貿易量は「確実に減少する」と見込む一方、米国は中国に代わり、その他の低い関税が課されている国からの輸入が増えるほか、中国が米国との貿易の道に見切りをつけ他国との関係を深めていく可能性があると橋本社長は話した。

今後はそういった情勢の変化に応じ俊敏に動けるかどうかで「海運業界の中でも結構勝ち負けがはっきりしてくるようなマーケット」になる可能性があり、情報収集能力を強化し、迅速に船隊を組み替られるような体制を構築していく考えを示した。

経団連も各国・地域の経済界との対話を担う国際経済本部の和田照子本部長をワシントン事務所長に充てる。本部長経験者の派遣は近年では異例で、情報収集を強化する狙いだ。

中国に次ぐ2位

いままで以上に情報の把握が重要になる中、自ら米国拠点を設置する余力がなかったり、関係構築の始め方がわからなかったりする企業も多い。そこでロビー活動の支援事業に乗り出す企業も出てきた。

PR会社の共同ピーアールは日本企業を米大手ロビー会社バラード・パートナーズにつなぐ事業に乗り出すと昨夏に発表した。バラードはトランプ政権に近いとされ、契約すると同社の持つ情報やネットワークを活用することができる。

トランプ大統領の就任式が開かれる3日前の1月17日朝、共同ピーアールとバラードがワシントンで開いたミーティングには、日本の総合商社や自動車メーカー、経済団体など約10の企業・団体の支店長クラスが集まり、同社幹部が語る新政権の動向に耳を傾けた。

米国の非営利団体オープン・シークレットによると、28日時点で2016-24年の日本の献金額は4億1075万ドル(約590億円)で、中国に次ぐ2位。昨年は4852万ドル(約70億円)だった。多くは政府系機関によるものだ。

共同ピーアールの谷鉄也会長は「韓国や中国がロビー活動に注力する中で、日本にはあまり予算を出せていない企業がまだまだ多い」と指摘し、裾野を広げる「ロビー活動元年」にしたいと意気込んだ。

(商船三井の会見での発言を加えて更新します)

--取材協力:岩井春翔、長谷部結衣、古川有希.

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