元日本銀行理事の門間一夫みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミストは、世界経済の不確実性が高まる中で、日銀は半年に1回程度の利上げペースを維持し、次回は6月の可能性が大きいとの見解を示した。

門間氏は10日のインタビューで、日銀の金融政策運営について、米トランプ政権の関税措置など米国発で世界経済の不透明感が強まっていることが「当然、意識されることになる」と指摘した。重視する基調的な物価上昇率が2%に届いていない状況でもあり、利上げペースが速まることはないとみている。

日銀は1月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%程度に引き上げたが、半年後の7月には参院選が予定され、政権運営の不透明感も強まりやすく、「利上げは避ける可能性が大きい」と予想。その上で、今年も高水準の賃上げが見込まれる下で、次回利上げは6月会合が本命とみる。米国で悪い経済指標が続く場合、「9月以降に先延ばしすることになるだろう」とも述べた。

元日銀理事の門間一夫氏

1月の利上げ以降も、政策委員の追加利上げに前向きな発言や堅調な賃金・物価データなどを背景に、市場には早期の利上げ観測が浮上している。金利スワップ取引から算出される5月1日までの利上げ確率は約3割と1月会合直後の1割程度から上昇しているが、門間氏はこうした市場の見方よりも慎重と言える。

5月に利上げする場合は、物価の上振れリスクが高まって、放置すれば政策対応が遅れるビハインド・ザ・カーブに陥る懸念が強まる時だと指摘。急激な円安進行のほか、春闘の結果や米経済指標が予想を超えて強い内容になれば排除しないとしつつ、4月2日に米政権による相互関税の発動が見込まれ、日本経済が個人消費を中心に強くない現状では「5月の可能性は低い」とみる。

日銀は1月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で消費者物価見通しを上方修正したが、植田和男総裁は食料やエネルギー価格の上昇といったコストプッシュ要因による面が大きいと説明した。一方で、生鮮食品を含む食料品の値上がりは必ずしも一時的ではないとし、消費者心理やインフレ期待に影響するリスクも考慮して政策運営を行う考えを示している。

門間氏は、コストプッシュに利上げで対応することは「悪手だ」と主張する。所得の低い層ほど住宅ローンなどの負担が増す一方、富裕層は金融資産の利息収入が増え、格差を拡大させる要因になると指摘。これが「政治の不安定化につながるリスクもある」とし、日銀がある程度放置しても仕方がない面があるという。

政府と日銀は円高期待

日銀の早期利上げ観測や欧米金利の上昇を受けて、日本の長期金利は10日に一時1.575%と2008年10月以来の高水準を付けた。日銀は長期金利は市場で形成されることが基本としているが、植田総裁は2月の国会答弁で「急激に上昇する例外的な状況では、機動的に国債買い入れの増額等を実施する」と発言した。

門間氏は、昨年3月にイールドカーブコントロールから完全に脱却しており、「日銀が長期金利に対して何らかの影響を与えようという発想はみじんもない」と指摘。現状程度の長期金利の変動は他国では当たり前だとし、「この程度の変動で日銀が国債の買い入れ額を変えるようなことはしない」との見解を示した。

トランプ大統領が3日、日本と中国が通貨安政策を取る場合、関税措置を講じる可能性を示唆したことに関しては、日本が不当に円安に誘導している事実はないと門間氏は指摘。現状は日本政府も日銀も円高を望んでいるとし、米政権の発言によって円高になるのであれば、「むしろありがたいことだ」と語った。

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