(ブルームバーグ):いわゆる「トランプ・プット」は希望的観測に過ぎないことを示す兆候が、これまでで最も明白に表れている。しかも、そのメッセージの発信者はトランプ大統領自身だ。
トランプ氏は6日、米株式相場の急落に関する質問に対し、「私は株式市場に目を向けてすらいない」と答えた。
トランプ氏は、メキシコとカナダに対する関税方針の二転三転がウォール街に広がる不安と関係しているなどといった見方を否定。いつものようにすぐに他の誰かに非難の矛先を向けた(今回は「グローバリスト」の仕業だと主張した。なお、この用語は反ユダヤ主義的な中傷の言葉として使われている)
それでも今週の株価急落は、トランプ氏が勝利した昨年11月の大統領選以降で最も深刻なものであり、ウォール街では2つの相反する懸念が浮上している。
一つは、1期目に株価を成功のリアルタイムのバロメーターとしていたトランプ氏が、少なくとも現時点では米国例外主義の新時代という自身のビジョンを実現するために、株式の強気相場と経済を犠牲にすることをいとわないという懸念だ。
もう一つは、関税に関する48時間での方針転換が景気後退を食い止めるためのもので、貿易や市場に関する強硬な発言もそれだけのものに過ぎないとしても、「大統領はやるのかやらないのか」と投資家が常に疑心暗鬼になり、最悪の事態に備える以外に選択肢がなくなることだ。
「政策レベルと株式市場への影響の両面において、2期目がどのようなものになるかに関するコンセンサスは誤りだった」と、アイオン・マクロ・マネジメントの創業者で最高経営責任者(CEO)のマイケル・ショール氏は述べた。
トランプ大統領の政策転換について「安心できるには限界がある。われわれはチャーリー・ブラウンとルーシーの領域にいるようなものだ。フットボールが置かれたと思ったら蹴る前に奪われてしまう」と述べ、「うんざりする」と付け加えた。

こうした展開は、トランプ大統領が株価を支えるために何でもするだろうという当初の期待を裏切るものだ。11月のトランプ氏勝利以来、投資家は第2次トランプ政権が成長促進策によって経済を後押しするという楽観的な見通しに基づき、テクノロジー大手などの銘柄に資金を投じてきた。
そうした見方は今や揺らいでいる。大統領の断続的な貿易戦争やイーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」主導の政府支出削減は、景気失速やなお高水準にあるインフレへの懸念と相まって、投資家の心理を揺るがしている。
米株式相場は2月19日のピークから6%余り下落しており、激しい動きが続いている。7日発表の米雇用統計も投資家の不安を和らげるにはほとんど効果はなく、S&P500種株価指数は一時1.3%安となった。その後は持ち直しプラスで取引を終えた。
S&P500種が取引時間中に少なくとも1%変動する日は7日連続で続いている。
過去3カ月間に市場をけん引してきたエヌビディアやテスラなどのテクノロジー株が大きな打撃を受けている。これにアップルとマイクロソフト、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コムを加えたいわゆる「マグニフィセント・セブン」7銘柄から成るブルームバーグの指数はこの期間に12%下落し、12月の最高値からは16%下げている。
「プットはない」
ベッセント米財務長官は7日、経済専門局CNBCとのインタビューで、バイデン前政権下での景気拡大は政府支出で人為的に支えられていたと主張。「市場も経済も中毒になっていた。われわれは政府支出に病みつきになっていた」とし、「この先はデトックスの期間になる」と話した。
株式相場を下支えするためにトランプ大統領が政策を転換することはあるのかと問われると、株式アナリストらがいう「トランプ・プット」といったものは存在しないと言明。 「上方向の『トランプ・コール』はあるだろう。良い政策を実施すれば、市場は上昇するものだ」と付け加えた。
トゥルイスト・ファイナンシャルの共同最高投資責任者兼チーフ・マーケット・ストラテジスト、キース・ラーナー氏は、株価が10-15%以上下落し続けるような場合、トランプ・プットは存在しないとは言い切れなくなると考えている。しかし、その同氏もトランプ大統領の優先事項や野望が相場の浮き沈みに対する考慮を超えて拡大しているとみている。
「トランプ・プットはありそうだが、それはおそらく、これまでの認識よりもやや低い水準だろう」と指摘。1期目には高値更新に関心が集中していたが、「今回はより総合的な見方をしていると言える。株式市場だけでなくメインストリートにも関心を向けている」と述べた。
予測不能
トランプ氏が株安に歯止めをかけるため介入する意向だとしても、それがどの程度効果的かは不明だと、トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズのマイケル・パーブスCEOは指摘する。その理由はトランプ氏がどれほど予測不能な人物であるかによる。
「トランプ・プットが発動された場合に実際にそれが機能すると想定することには大きなリスクがある」と指摘。「トランプ氏が突如として貿易面でハト派に転じたり、確実な合意を成立させるために外国にすぐに譲歩したりする姿を想像するのは難しい」と述べた。
いずれにせよ、関税に関する堂々巡りが、ほんの数カ月前にはほとんどの人が予想していなかったほど投資家をうろたえさせていることは明らかだ。
以前は金曜日に「市場がどこで引けるか、かなり正確に予想できていた」とショール氏は話す。最近の目まぐるしい取引を経て、もはや確信が持てなくなっているという。
原題:‘Trump Put’ Undercut as Tariff Flip-Flops Frazzle Stock Traders(抜粋)
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