(ブルームバーグ):英独仏伊など欧州主要国の指導者らは2日、ロンドンで緊急首脳会合を開催し、ウクライナへの広範な支持を確認する一方、同国に安全保障を提供する「有志国連合」の協議を開始した。トランプ米大統領との会談が物別れに終わったウクライナのゼレンスキー大統領を協議の場に戻すため、水面下でも奔走した。
ゼレンスキー氏がトランプ氏らと激しい口論となったホワイトハウスでの破滅的衝突を受け、両者の関係を修復しようと、スターマー英首相やイタリアのメローニ首相、フランスのマクロン大統領を含む欧州の指導者らは、ゼレンスキー氏およびトランプ氏の双方とやりとりし、週末に慌ただしい外交を展開した。
ウクライナでの停戦に向け、トランプ氏がロシアのプーチン大統領に直接働き掛ける状況の変化に対応し、欧州の防衛力増強の議論も加速した。
英仏両国は、停戦後の和平の永続性をウクライナに保証するため、平和維持部隊に参加する「有志連合」の発足を目指している。事情に詳しい欧州当局者によると、米国の長年の同盟国である英仏は、欧州連合(EU)加盟国以外の国(カナダも含む可能性)を加えた「欧州プラス」のグループをトランプ大統領に提示し、賛同を得たい考えだ。
トランプ氏とプーチン大統領との停戦協議のさらなる進展を待たず、欧州とウクライナへの関与を継続するようトランプ氏を説得する狙いがある。
マクロン大統領は首脳会合終了後、仏紙フィガロとのインタビューで、ウクライナへの平和維持部隊の展開を巡る交渉を進められるよう1カ月の停戦を一部諸国が望んでいると語った。英政府当局者によれば、停戦スケジュールに関するいかなる合意も成立していない。
スターマー英首相は記者団に対し、「ここ数日の協議を経て、英仏と他の諸国は、停戦プランでのウクライナとの協力で合意した。そのプランを米国と話し合う」と述べた。2日の緊急会合には、欧州諸国のほか、カナダやトルコの代表も出席した。

ゼレンスキー氏は2日の首脳会合を「強力なスタート」だと評価し、外国部隊がウクライナに駐留する「理論的な可能性」を既に考えていると述べた。ただ、同日にとられた「最初の一歩」について詳述するのは時期尚早だと語った。
ゼレンスキー氏とトランプ氏らとの激しい口論に伴う混乱にもかかわらず、トランプ政権の一部当局者にはウクライナとの協議を打ち切る用意がないという確信が、欧州首脳らのプランを支えている。協議に詳しい欧州当局者によると、トランプ大統領の一部補佐官らは、いかなる合意もゼレンスキー氏の辞任が前提と主張しているが、トランプ氏自身は政権の一部メンバーより強硬意見が少ないと思われる。
「プーチン氏は起きたことを考慮」
一方、インタファクス通信の報道によると、ゼレンスキー氏とトランプ氏の口論はウクライナ戦争の解決がいかに難しいかを浮き彫りにしていると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は語った。
このような状況においては、米国の取り組みとロシアの用意だけでは明らかに不十分で、極めて重要な要素が欠けているとペスコフ氏は説明し、明瞭で詳細な和平案は議題に上っていないと指摘した。
プーチン大統領の反応については、「起きたことを考慮に入れた」とし、プーチン氏とトランプ氏は最初の電話会談以降、公にする必要があるような接触は何もないと述べた。
暗闘
元北大西洋条約機構(NATO)英国代表部大使のアダム・トムソン氏は2日、スカイニューズに対し、「欧州首脳とスターマー英首相にとって現時点の最重要課題は、欧州の関与があればゼレンスキー氏は和平を結ぶ用意があると公に示すことだ」と指摘。その上で、「パッケージをトランプ氏にとって十分に魅力的にする必要がある。トランプ氏がウクライナや欧州の側に立たないとしても、少なくとも調停役として再び投資したいと思わせられるだけのものにする必要がある」と語った。
米国との協議の場にゼレンスキー氏を戻すための欧州の暗闘は、トランプ氏が欧州に突きつけた難題の一つに過ぎない。欧州の指導者らは、ウクライナを守るだけでなく、北大西洋条約機構(NATO)を含む欧州への長年の関与から米国が手を引く可能性に備え、より信頼に足る安全保障体制構築を迫る新たな圧力に直面している。
EUは6日に特別首脳会議を開催し、総額200億ユーロ(約3兆1400億円)の対ウクライナ軍事支援、財政規律緩和の可能性も含む防衛費の増額を協議する。マクロン仏大統領はフィガロとのインタビューで、EU全体で2000億ユーロ増額し、GDPの3-3.5%を目標とすべきだと主張した。
欧州委員会のフォンデアライエン欧州委員長はロンドンで記者団に対し、「欧州の再軍備を緊急に進める必要がある」とし、欧州は防衛支出の「急増」が求められていると語った。欧州はウクライナを「侵略国が飲み込めない鉄のハリネズミ」に変身させる必要があると呼び掛けた。
欧州の指導者らは、好戦的なロシアに米国抜きで恐らく対峙(たいじ)せざるを得ない最悪のシナリオに直面している。
国連総会の2月24日の特別会合では、ウクライナの領土保全とロシア軍の即時撤退を要求する決議(ウクライナや欧州諸国提出)が採択されたが、米国はロシアや北朝鮮と共に反対に回った。欧州の一部当局者は、対米関係が深刻な状態にあると認識した。
彼らはその後、トランプ氏が大統領執務室で、ゼレンスキー氏を公然と????責(しっせき)し、何かが壊れる恐ろしい光景を目にした。これまで戦争や金融危機を通じて平静を保ってきた何人もの当局者が、ブルームバーグとのインタビューで怒りをあらわにした。第2次大戦後、欧州と米国とを結び付けてきた信頼と価値観がもはや共有されない現状が浮き彫りになった。
クリントン政権で国防次官補を務めたハーバード大学のグレアム・アリソン教授は「トランプ大統領とその政権は、米欧の同盟関係が何十年も直面したことのない根本的な問題を提起した」と指摘した。

原題:Europe Races to Craft Plan to Save Zelenskiy and US Support、Europe’s Nightmare Is Here: They Have to Fight Putin Without US、Kremlin Calls Trump-Zelenskiy Argument Unprecedented: Interfax(抜粋)
(欧州当局者の発言、ロシア側の反応などを加えて更新します)
--取材協力:Nancy Cook、Jorge Valero、Donato Paolo Mancini、Konrad Krasuski、Aliaksandr Kudrytski.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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