2018年の雨の土曜夜、米ニューヨーク市警(NYPD)のアンドリュー・ディアス、オスカー・ロペス両警官は、目立たない車に乗って交差点に止まっていた。その時、オートバイに乗った若いカップルが目の前を通り過ぎた。

両警官の話では、バイクが赤信号を無視して高速で走り抜けたのを見て、クイーンズ区サニーサイド地区の側道を走るカップルを追跡したという。

追跡開始から約90秒後、衝突音が聞こえ、前方に火花が散るのが見えた。滑りやすくなった道路でバイクがスリップし、食パン配達のバンの前面に衝突。バイクに乗っていたスティーブン・ゴダードさんとエイミー・グティエレスさんはバンの下敷きになり、1時間内に死亡が確認された。

ブルームバーグが今年入手した記録によれば、市警の調査官がその夜に何が起きたのかを解明し、リスクを軽視したとして両警官の処分を決めるまでに、4年近くかかった。22年、両警官に下された処分は20日間の休暇没収だった。

全米最大規模のニューヨーク市警で、処分に至るケースはまれだ。一方、同市の警察車両による追跡件数は急増しており、アダムズ市長の就任以降では7倍となっている。

カーチェイスは、警官が取り得る最も危険な行動の一つだ。10年余り前にさかのぼる市のデータによると、直近の会計年度(24年6月期)に警察車両の衝突率は過去最高を記録。ザ・シティーの分析によると、今年に入り警察の追跡で少なくとも315人が負傷し、7人が死亡している。

16日の記者会見でこの件について質問されたアダムズ市長は、「市長としての私の任期中、危険で凶悪な人物が犯罪に手を染め、誰かを撃ち、暴力事件を起こして、そのまま逃げおおせると考えないよう、われわれは体制を完全に変更した」と指摘。

その上で、ニューヨーク市警は「最大限の注意」を払っており、リスクを軽減するための訓練を行っていると強調した。

市長は「1人の命も失ってほしくないが、それが起きるのは警官が誰かを追跡したいと考えたからではなく、悪い人間が警察から逃げようとして、周囲の人々の安全を全く考慮しないからだ」と述べた。

ブルームバーグ・シティーラボのコメント要請に対し、ニューヨーク市庁と同市警からの返答はなかった。

サンフランシスコ・クロニクル紙がまとめた警察車両の追跡に関する全米データベースによると、17年以降、米国内で発生した死者を伴う追跡事案の大半は、テールライトの故障やシートベルト未着用といった軽微な違反が発端。

容疑者が停止を求められても止まらなければ、事態はすぐに高速のカーチェイスへとエスカレートし得る。しかし、警官が規則違反と見なした人物を追跡したいという衝動に駆られるのは当然としても、警察車両による追跡の多くはリスクがメリットをはるかに上回ると専門家らはみている。

道路交通安全局(NHTSA)のデータによると、18-22年に警察の追跡が原因で起きた交通事故で、少なくとも2107人が死亡した。

ニューヨーク市警の方針では、危険過ぎると判断した追跡は中止するよう義務付けられている。ただ、天候や犯罪の重大性などの要因に基づいて、警官自身が判断を下すことが求められている。

原題:NYPD Car Chases Are Becoming More Frequent – and More Dangerous(抜粋)

--取材協力:Raeedah Wahid.

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