2018年、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の幹部が米国の対イラン制裁に違反した疑いで逮捕された際、当時のトランプ米大統領がこの件に介入するかが注目を集めた。

トランプ氏は今、米検察当局が贈賄や詐欺の罪でインド新興財閥アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニ氏を起訴したことで、当時と同様のジレンマに直面している。

アダニ氏はインドで最も影響力のある実業家で、モディ首相と緊密な関係にあるとされる。モディ氏率いるインド人民党(BJP)は「私的な問題」としており、アダニ・グループは起訴について根拠がないものだとコメントしたが、この件は米印の外交関係を悪化させる恐れがある。

トランプ氏は結局、ファーウェイ幹部逮捕の件に介入しなかったが、表面的に見ればアダニ氏起訴の件の方が介入する動機は強い。11月の大統領選に勝利したトランプ氏は、モディ氏と個人的なつながりがあるだけではなく、アジアにおける中国とのパワーバランス維持に向けインドと関係強化を望む対中タカ派を側近に起用している。

ただトランプ氏が手を貸しても、米国の敵味方を問わずアダニ氏起訴の影響は世界に及び得るものだ。米国によるロシアや中国、さらにはインドも対象とした制裁拡大を受け、米国の金融システム支配に代わる仕組みを求める動きが強まっており、主要新興国のBRICSは加盟国(当初はブラジルとロシア、インド、中国、南アフリカ)を増やしている。

ゴータム・アダニ氏

インドは米国との友好的な関係を維持しつつ、ロシアや中国といったいわゆる「グローバルサウス」との良好な関係も保とうとしている。アダニ氏の起訴はこうした戦略を強めるに過ぎない。インドは依然としてロシアの武器とエネルギーに依存しており、近くプーチン大統領をインドに迎える予定だ。同大統領がインドを訪問すれば、ロシアのウクライナ侵攻開始後では初めてとなる。

ニューデリーにある政策研究センターのブラーマ・チェラニー教授は「アダニ氏の起訴はインド国内では政治的な動機によるものだとみられており、トランプ次期政権が起訴を取り下げない限り、米印の協力と相互信頼に影響を及ぼすだろう」と指摘。「次期政権がインドとの関係をどう考えるかによって多くのことが決まる」と述べた。

インド外務省は追加情報を求めた問い合わせに対しコメントを控えた。トランプ陣営は追加情報の提供の要請に応じなかった。

原題:Adani Charges to Test Trump’s Desire to Keep India in US Orbit(抜粋)

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