モディ政権は、「メイク・イン・インディア」を掲げ、製造業の競争力強化を志向している。製造業の国内立地を促進することを目的に、政府は生産額連動補助金の給付や半導体工場新設への財政支援を実施してきた。製造業の一部ではそうした取り組みが奏功し、生産能力が拡大。たとえば、携帯電話の分野では輸出額が10年間で10倍以上に増加している。

もっとも、製造業全体としてみれば、インドの国際競争力は引き続き低位だ。インドの貿易赤字は2020年代に入ってから一段と拡大しており、とくに中国からの輸入が急増している。海外からインドへの直接投資の伸び悩みが競争力の向上を阻害するという見方もある。これは、経済安全保障の観点から実施されている事前審査制(国境を接する国からの投資が対象)が中国香港からの投資を抑制していることが一因であると考えられる。

インド政府内には、製造業の強化に向けて、中国からの直接投資受け入れ拡大の声もある。インド財務省は本年7月の年次経済報告書で、中国資本の受け入れが輸出の拡大と対中貿易赤字の縮小につながるとの見解を表明した。電子部品や電気機器などの産業が受け入れの候補となる。これら高付加価値産業は、インドが劣後する反面、中国は近年優位性を高めている分野である。

政府内には中国資本の受け入れは経済安全保障面で問題があるとの指摘もあるが、米トランプ次期政権が孤立主義を強め、米国企業からの積極的な投資が望めなくなる場合、産業育成のために中国からの投資を受け入れざるを得ないとする声がより強まる可能性もある。

(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 副主任研究員 細井友洋)