一日の終わりに湯船に浸かり、疲れを癒やす。それは、まさに至福のひとときです。今回の老舗物語は、福島市北町に佇む銭湯「つるの湯」。創業は大正3年。112年という長い年月にわたり、地域の人々の心と体を温め続けてきました。
こじんまりとしたフロントには石鹸や垢すりが並び、脱衣所には木製のロッカーが設置されています。昔ながらの空間が、令和の時代にも大切に残されています。
「いい風呂だったよ」その一言を励みに
「一日の生活が終わる最後の締めは、やっぱり公衆浴場に行ってお風呂に入ること。もちろん裸のお付き合いで、さまざまな年代の方がお風呂に入って社会を体験する、教育の場でもあったんです」
片桐さんが銭湯を継いだのは36歳の時。病に倒れた父に代わり、妻の智子さんと二人三脚でこの湯を守り続けてきました。その原動力となっているのは、客からかけられる温かい言葉です。
「最後のお客さんの言葉ですね、『いい風呂だったよ』と。そういう声を聞くと、皆さんのためにも頑張らなくちゃならないのかなと思います」
つるの湯には、鉱石を入れた『ミネラル温浴泉』、泡が心地よい『バイブラ』、そして刺激が癖になる『電気風呂』と、3種類のお風呂があります。そして、風呂桶はもちろん、おなじみの黄色い「ケロリン」です。
時代とともに消えゆく銭湯文化
かつて社交場であり、娯楽の中心でもあった銭湯。しかし、自家風呂の普及やスーパー銭湯の台頭など、時代の変化とともにその姿を少しずつ消していきました。
脱衣所に飾られた1955年頃の福島駅周辺の地図が、その歴史を物語ります。戦後、市内には32軒もの銭湯がありましたが、現在残っているのはつるの湯ただ一軒のみです。
「お風呂屋に行っていろんな方とおしゃべりしながら一日を過ごす、そういう時代だったと思います。お客さんのニーズの考え方が違って、大変厳しい時代に変わりつつありますね」と片桐さんは語ります。
そのつるの湯を今、受け継いでいるのが息子の秀樹さん。4代目です。
「お客様が『なくさないでね』とか、『辞めないでね』とか、『いいお湯でした』なんて言って帰っていただけると、まあ頑張って続けようかなと思いますね。親父の代で終わらせたくなかったんで、私、4代目としてやるようにしました」
世代を超えて愛される憩いの場
午後3時、つるの湯が開店します。開店と同時に、早速3人のお客さんがやってきました。
半年前から仕事終わりに通っているという30代の男性は、「家ではそんなにじっくりゆっくり浸かることってあまりないと思うんで、時間をかけて入れるのはいいのかなと思います」と、その魅力を語ります。
一方で、長年の常連客は少し寂しさも感じています。「遊び場でもあり、勉強場でもあった。大人との付き合い方の勉強もできた。そんな昔だったよね」と振り返り、「ずっとここには残っててほしい」と願いを口にします。
午後6時半には、郡山市から部活の大会で訪れた高校生たちがやってきました。仲間同士、裸の付き合いです。中には銭湯が初体験だという生徒もいました。
--高校生「このタイル、古くてアンティークな感じが逆に新鮮味があって、貴重な体験です」
--高校生「裸の付き合いした分、絆が深まって仲良くなれて、最高です」
令和世代にも、銭湯の良さは確かに伝わっているようです。お風呂上がりの楽しみといえば、コーヒー牛乳。火照った体に染み渡るその味は格別です。
「銭湯で飲むの初めてだったんですけど、すっごい気持ちいいっす。これを機にちょっと銭湯巡ってみようかなとか思ったりして」と話す高校生に、秀樹さんは「ぜひまた福島に来たときは寄ってください。コーヒーごちそうしますから」と笑顔で応えます。
「銭湯廃れば人情も廃る」文化を未来へ
お客さんとのたわいもない会話が生まれるひととき。失われつつある温かい場所が、つるの湯にはありました。
「『銭湯廃れば人情も廃る』っていう言葉もあるんですけども、やはり日本人は銭湯好きですし、皆さんとワイワイ話す場所でもあったもんですからね。一人でも多くの方々と接点を持って、お客さんのために何か考えていきたいなと」と片桐さんは前を向きます。
福島市唯一の銭湯、つるの湯。日本人が育んできた大切な文化を、これからも未来へと残していきます。
『ステップ』
福島県内にて月~金曜日 夕方6時15分~放送中
(2026年5月28日放送回より)













