「運営側も楽しんで、笑顔になって初めてお客様に喜んでいただける」

「もちろん、お客様が一番に求めるのはチームの強さでしょう」。元選手で広報部長の髙木純平(41)は自覚する。「でも、僕たちは強さには携われないので、強さ以外の部分でお客様に満足してもらえることは何だろうと。社長が就任してから本気で考え始めた」
山室が、みずほ銀行支店長時代から組織のトップとして貫くのは、「社員のやりたいこと」を叶える環境づくり。会社も一つの「スポーツチーム」と捉え、社員の力を最大限発揮させることを念頭に置いてきた。社員自身が楽しく働ける状態が大前提という。
2020年、山室は社内に「フルスタジアムプロジェクト」を立ち上げた。「同じベクトルに向かって、部署の垣根を越えて力を結集することが大きな狙いだった」。広報や営業など5部署の社員が集い、ホームスタジアムを満員にするための案を出し合い、トライアンドエラーを繰り返している。

プロジェクトメンバーの一人でもある髙木はこう話す。「選手だった時、自分が楽しくサッカーをしていると、お客様も喜んでいただけると実感していた。運営側も楽しんで、笑顔になって初めてお客様に喜んでいただけるので、まずは自分たちが楽しもうよという気持ちをすごく大事にしている」
プロジェクト開始から4年目。観客の裾野を広げただけでなく、新たなスポンサーの獲得にもつながっている。従来はスタジアム内に看板を出したり、社内の福利厚生の一環で従業員に観戦チケットを配ったりするスポンサーが主だった。最近はそれらを求めず、選手が登場するPR用動画制作を依頼するスポンサーも出始めている。

「企業の方がやりたいことを実現するために、我々を活用しようとする傾向が見られるようになった」と、髙木は変化を感じる。「僕たちも発信力や提案力をより磨かなければ」