静岡県熱海市伊豆山で起きた土石流災害から11月3日で1年4か月になります。徐々に復興が進む中、伊豆山港ではこの秋から伊勢エビ漁を再開しました。しかし、漁師たちは不安を抱えながら漁を続けています。

ズラリと並んだ海の幸。伊勢エビの刺身に味噌汁、殻付きのまま焼いた『鬼ガラ焼き』。この店では伊豆山の沖で獲れた伊勢エビを使っています。

<和食 駒 駒込智哉さん>
「肥えてますよね。立派というか身の入りもしっかりしてるから美味しいですよね」

<客>
「おいしい最高」

網から上がるのは9月から解禁となった地元の名産、伊勢エビです。

<漁師 松本早人さん>
Q.伊豆山の伊勢エビはこれくらいの大きさ?
「これは少し大きいぐらい」

伊豆山港の沖は良質な伊勢エビが獲れる漁場です。松本早人さんは3世代続く漁師の家系に生まれ、伊豆山の漁業を守っています。

<松本早人さん>
「この辺はそこまで影響ない。最初の2カ月はこの辺まで泥が流れて…」

2021年7月に起きた土石流災害では、伊豆山港にまで土砂が流れ込みました。施設も被害を受け、電気や水道が使えなくなりました。

<漁師 松本早人さん>
「まさか山の土で壊されちゃうとは思わなかったんで」

行政に掛け合いましたが、港を再建できるまでの補助金は受け取れず、仲間と共にクラウドファンディングで資金を集めました。集まった金額は680万円を超え、水道と電気を整備しました。

<漁師松本早人さん>
「ついた!ここに船着けられるから全然違うよね」

<伊豆山港の漁師>
「(水が出るのは)船も洗えるし便利」

災害から1年4か月。港での作業には笑顔も見られ、元の姿に戻りつつあるように見えます。しかし…。

<漁師 松本早人さん>
「港の中の泥水っていうのが一番の課題。港の外は水はものすごくきれいなんですけど港の中が水が濁ってる。きょうは底がうっすら見えるんですけど普段は見えない状態」

港が濁っていると獲ってきた伊勢エビの品質の低下につながるだけでなく、船のエンジンにも支障をきたすといいます。

港の上流にはいまだ大量の盛り土が残ったまま。雨が降ると落ち残った土砂が逢初川を伝い、港に流れてきます。静岡県は今年9月、行政代執行に踏み切り、盛り土の撤去に取り掛かりましたが、工事は2023年の梅雨頃までかかるといいます。

<漁師 松本早人さん>
「今回残りの盛り土を取るっていう作業にこれから入る段階で、泥をいじると泥水が流れてくる。どれくらいの泥水が流れてくるのかちょっと不安なところなんですけど」

松本さんたちは静岡県の工事担当者に港の現状を訴えました。

<漁師 松本早人さん>
「かき混ぜるとこっちと同じ感じになっちゃう。泥を沈殿させて上澄みをすくって市場に持っていく。あまり泥が流れてくると、これ以上流れてくると俺たちは弱っちゃう。今はまだ被害はないけど、エビとかサザエとか泥臭くなっちゃったらその時点で自分たちご飯が食べれなくなっちゃう。仕事ができなくなっちゃう」

<静岡県の担当者>
「直接こうして話を聞くと切実さが伝わってくる。ここで生活している方々のために、なるべく濁りを出さないように丁寧に(盛り土の)工事をやらないといけない」

<漁師 松本早人さん>
「港も伊豆山の町も1日も早く、今まで通りの伊豆山に戻したいそういう気持ちですね」

伊豆山の港を先祖から託された漁師は突然奪われた日常を取り戻すのに必死です。