【千奈ちゃんの父親意見陳述 全文】
被害者である河本千奈の父親として、次のとおり意見を陳述します。
千奈は私達家族の主役であり、それは事件後も変わりません。事件後から両被告人と面談を行い、公判でその態度や発言を見聞した私の意見を述べさせていただきます。
元担任は、担当していた「つき組」で無断欠席をする保護者と園児はいなかったと話していました。つまり、欠席や遅刻の連絡がなく千奈がいなかったことは、希にみる異常なケースです。それなのに千奈の所在確認を怠り、勝手に休みと判断し、結果として千奈を見殺しにした行為は、子どもの命を預かる保育士としてあるまじき行為です。
元担任は所在確認を怠った理由について、事件当日の業務が忙しかったと供述しています。しかし、被告人質問では、身体測定の準備はわずか5分しか掛からなかったこと、転園した元園児や保護者と職員室の近くで15分間も立ち話をしていたこと、教室内には内線電話があり教室を離れなくても所在確認を行えたことなどが、明らかになりました。また、何度も千奈がいない違和感に気が付いていながら行動に移さなかったことは、子どもの安全や命を軽視していることにほかなりません。
さらに弁護人質問では職員室のホワイトボードを見ても千奈が出席するか分からなかったと発言していましたが、欠席や遅刻早退の記載がない子どもは全員出席することを認識していました。つまり自分を守るため、すぐにバレる嘘をついたのです。事実と異なる発言を法廷でしたことから、私は、元担任は反省していないと感じました。
元理事長の無責任さと反省の無さは、許されるものではありません。あなたの行動がどれ程の深刻な結果をもたらしたか、そして私達遺族にどれほどの苦しみを与えたかということを、理解しているのでしょうか。彼の言動からは千奈の命を軽視し、結果を受け入れる用意すら出来ていないことが明白です。
事故の原因や自分の行いのどこに不足があったかを分析することは反省の第一歩です。元理事長も、弁護人との問答の中でそれを認めています。しかし、元理事長は、静岡大学教育学部教授の意見が書かれた供述録取書を、読んでいないと言いました。また、ドライブレコーダーの音声のことも知らないと言いました。元理事長自身が立ち会った検証のことも、覚えていないと言いました。これらの発言に対しては、彼は何をしに裁判に出てきたのかと、耳を疑ってしまいました。
そして元理事長は、事件の原因を問う質問にも、「自分が確認しなかったこと」としか答えられませんでした。チェック体制が構築されていなかったこと、職員間で情報共有が出来ていなかったこと、保護者への速やかな連絡ができていなかったこと、これらをマニュアル化し運用できていなかったこと。こんな単純明快な分析すら、元理事長は出来ていません。それどころか、証拠に目を通すという、公判に臨む者がすべき最低限の作業すら行っていないのです。元理事長が全く反省をしていないということは明らかです。
また、降車確認は運転手と乗務員が行うと認識していながら、事件後いつもの運転手から降車確認をしなければならないと聞いて「あ、そうだったんだ」と被告人質問のなかで軽々しく答えていました。子どもの命を守るはずの園長が、子どもを殺したということの重大さをいまだに自覚できていないのです。
元理事長の、遺族を馬鹿にしたような非常識といえる言動は、何度もあります。事件当日の夕方、私達夫婦に彼が最初に言った言葉は忘れません。「病院に行く用事があって急いでいた」。そんな自己中心的な都合のせいで、千奈は私達大人ですら経験したことのない生き地獄の苦しみと恐怖を味わいながら亡くなったのです。
事件翌日も、司法解剖が終わり変わり果てた姿で帰宅した娘の腕を、元理事長は、私達夫婦の許可もなく突くように触ったのです。自宅での面談の際にも、妻の質問に対して、妻を睨みつけ怒りながら声を荒げて返事をしてきました。さらに園長を退任したあと自宅でどのように過ごしているか尋ねた際には、気晴らしに友人と出掛けていると言い放ちました。
裁判長の「川崎幼稚園が廃園になったら困る人がいるか」という質問に対し、元理事長は、「信用して園に子どもを預けてくれている保護者が困ると思う」と、悪びれる様子もなく発言していました。私達も、園のことを信用して娘を預けていた親のひとりでした。ですが、その信用は裏切られ、私たちは娘を殺されたのです。
千奈の命を奪った両被告人を、私は許しません。「パパに会いたい」 「パパ大好き」 と生前の千奈が言っている動画をみて、私は謝ることしか出来ません。強烈な怒りと恨みで、両被告人を殺してやりたいと考える日も少なくありません。
2021年に福岡の保育園でバス置き去り事件が発生し、国や県、市から注意喚起の通達がありました。しかし、そのわずか一年後に、杜撰な管理体制によって同様の置き去り死亡事件を起こした罪は重大であり、世間にも大きな衝撃を与えました。過去の判例よりも重い実刑判決が、両被告人に下されることを望みます。