祈りの言葉

水俣病によってかけがえのない命を失われた方々に対し、心から哀悼の意を表します。
我が国の高度成長を背景にして生じた水俣病問題は、深刻な健康被害をもたらしたばかりではなく、地域住民の皆様に大きな亀裂をもたらしました。
長きにわたる大変な苦しみの中で、お亡くなりになられた方々や、そのご遺族の方々、そして健康被害や地域に生じた軋轢、差別や偏見などに苦しまれてきた皆様に対し、誠に申し訳ない気持ちです。
政府を代表して、水俣病の拡大を防げなかったことを改めて衷心よりお詫びを申し上げます。
1956年の水俣病公式確認から今年で70年。
この節目の年に、環境問題に長く携わってきた私自身も、環境大臣として水俣病犠牲者慰霊式に参列させていただくことができ、歴史的使命を担っていることを厳粛に受け止めております。
実行委員会の皆様をはじめ、開催に向けて準備を進めてこられた地元の関係者の皆様のご努力に感謝を申し上げます。
70年前、この美しく豊かな自然が汚染され、甚大な被害が生じ、平穏な地域社会に長年にわたる不幸な亀裂がもたらされたことに、ただただ言葉に詰まり、深く思いを致さずにはいられません。
昨日、この水俣の地に立ち、水俣の豊かな自然と不知火海の美しさの目の前にして、また水俣病の被害を受けた方々のお話を伺い、深い思いの中で今この場に臨ませていただいております。
この節目の年に改めて、私たち一人一人が水俣病と向き合い、水俣病問題の解決に全力を尽くすとともに、水俣病のような悲惨な公害を二度と繰り返してはならない、国の内外の方々、次の世代の方々に水俣病の歴史と教訓を、そして多くの方々のご努力によって取り戻された豊かで美しい自然環境をしっかりと次の世代に引き継いでいかなければならないと、そのように環境大臣として改めて認識し、強く決意いたしました。
水俣病は我が国の環境行政の原点であり、環境省は環境庁が発足した時から常に水俣とともにあり続けました。
これまで多くの方々のご協力を得ながら、水俣病に関する補償や救済に努めるとともに、胎児性・小児性患者をはじめとする方々の生活の支援や地域社会の絆を取り戻す、いわゆる「もやい直し」に全力で取り組んでまいりました。
我が国では世界に類を見ない高齢化が進んでおり、ここ水俣をはじめ周辺の地域においても例外ではなく、また急速な人口減少、経済的活力の低下など地域社会全体で向き合うべき多くの課題があります。
水俣病の被害を受けられた方々やそのご家族の方々の多くが高齢期を迎えられるとともに、今なお水俣病に関する差別・偏見や地域社会の亀裂に苦しまれている方々がいらっしゃいます。
そうした中、地域で日々努力されている医療・福祉関係の皆様に深く敬意を表するとともに、関係自治体と緊密に連携して地域の皆様の声に耳を傾け、高齢化や人口減少に直面する被害地域の医療・福祉の充実、そして地域の再生・融和・振興に一層取り組んでいきたいと考えています。
また、水俣病のような悲惨な公害は世界のいかなる国においても繰り返されてはなりません。
国際社会が一丸となって水銀対策に取り組むため、2013年水銀に関する水俣条約が採択され、153に及ぶ国と地域が締結に至っています。
そうした中、昨年11月、スイスにて開催された締約国会議では、日本は水銀廃棄物に関する議論を主導するなど、各議題の進展に積極的に貢献するとともに、サイドイベントにおいて水俣高校の生徒自ら我が国の歴史と教訓、そして環境教育の重要性を世界に発信しました。
私は会議に参加された生徒のお二人に、先ほど直接お話を伺いましたが、水俣病の歴史と教訓を学び、受け継いでいくことこそが、これからを担う世代の方々が誇りを持って生きることのできる社会の礎となり、その歩みが今まさに築かれつつあることを強く実感いたしました。
引き続き、語り部の皆様をはじめとした多くの方々のご協力とともに、水俣病の経験と教訓を世界に発信し、国際社会の中で先頭に立って水銀による環境汚染や健康被害のない世界の実現に向けて積極的に取り組んでまいります。
水俣には、水俣の地を愛し、地域の絆を深め、地域の発展を願い、日々懸命に奮闘されている方が多くいらっしゃいます。
国として、地方公共団体、経済界、国民の皆様とともに、美しく豊かな自然と社会を次の世代にしっかりと引き継いでいくこと、そして環境を守り、持続可能で安心して暮らしていける社会の実現を目指して全力で取り組みを進めていくことを誓います。
結びに、改めて皆様とともに更なるもやい直しに取り組んでいくことを決意するとともに、水俣病の犠牲となり、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りし、私の祈りの言葉とさせていただきます。
令和8年5月1日 環境大臣 石原宏高
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