くじ引きで将軍が決まっていた!?

――昔は、神様のお告げは天皇や有力者など一部の特別な人しか受け取れないものだったかと思います。いつ頃から庶民にも広まったのでしょうか。
平野:だんだんと「自分たちも神様とコミュニケーションしたい」という需要が高まり、巫女のようなシャーマンが間に入る形で、歌の占い「歌占(うたうら)」が広まっていきました。室町時代には、弓につけた短冊から1枚を選んで神意を占う、今のおみくじに近い形も登場します。
――個人の悩みだけでなく、もっと大きな、例えば歴史的な出来事がくじで決まったような例はあるのでしょうか?
平野:たくさんありますよ。有名なところでは、室町幕府の第6代将軍、足利義教(よしのり)はくじ引きで選ばれました。
――将軍が、くじ引きで!?
平野:はい。5代将軍の義持が後継者を指名しないまま危篤状態になったため、弟4人の中から次の将軍を選ぶことになりました。そこで4人の名前を書いた紙を用意し、石清水八幡宮の神前でくじを引いて決めたのです。
――すごい話ですね。昔の人にとって、くじは現代の「運任せ」とは全く違う、非常に重要な意思決定の方法だったんですね。
平野:その通りです。自分たちが信仰する神仏の前で引くことに大きな意味がありました。他にも、源頼朝が鶴岡八幡宮の場所を移すかどうかを決めるために神前でくじを引いたり、戊辰戦争の際に桑名藩が幕府側につくか新政府側につくかを神前でのくじで決めたり、という話も残っています。自分たちでは判断が難しいことを決めるために、神仏の力を借りていたのです。
成蹊大学 平野多恵教授
<主な著書>
『おみくじの歴史―神仏のお告げはなぜ詩歌なのか』吉川弘文館
『おみくじの歌』笠間書院
『くずし字がわかる あべのせいめい歌占』柏書房
<監修に関わった主なおみくじ>
ときわ台天祖神社(東京・板橋区)「天祖神社歌占」
武蔵野坐令和神社(埼玉県所沢市)「千年和歌みくじ」
<12月27日(土)配信予定>
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