30歳になったら、故郷でコーヒーショップを開きたい――。若きバリスタの夢と命は、交通事故によって絶たれました。

その遺志を継いだ家族の挑戦は、事故から6年経った今も続いています。淹れたてのコーヒーの香りと共に広がる、被害者遺族のための取り組みとは。

【この記事は「前編・後編」の「前編」です】

叶う目前だった夢

「息子は『30歳になったら熊本へ戻ってコーヒーショップをやるんだ』と、本当に楽しそうに話していました。私も一緒に暮らしていたので『本当そうだね』『来年30歳だね』って」

今年9月、高校生に「命の大切さ」を伝える講演会を開いた深迫祥子さん。

夫婦でコーヒーショップを営みながら、事件や事故の被害者支援を続けています。

深迫さん自身も交通事故の遺族です。

親子で描いた夢の光景

語ったのは、2019年に亡くなった息子・忍さんについて。

深迫忍さん

忍さんは大学進学先の東京でコーヒーに魅せられ、バリスタになる道を選びました。

アルバイトから始まり、コーヒーに携わること10年。東京・渋谷の店で働いていた忍さんは、「自分の店を開く」という夢の実現に向けて動き始めていました。

2019年7月7日。深迫さんと忍さんは、店の設計や見積もりの進捗について話し合いました。

忍さんが求めたのは、癒しを求める人や、コーヒーを学びたいと思う人が集まる場所です。

「店をオープンしたら、目の前には焙煎所を作るんだ。セミナーをできる場所も」

「隣にはガーデンを作って、子ども達にいっぱい遊びに来て欲しい」

その2日後。忍さんの同僚から電話がかかってきました。

「お母さん、病院に来てください。忍が救急車で運ばれた」