「エンジェルドレス」は、死産した赤ちゃんに着せる特別な服のことだ。死産は国内で年に1万5000例ある。それだけ多くの母親や家族が心苦しい瞬間と向き合う。亡くなった赤ちゃんは多くの場合、繊細でもろい。抱き上げることもかなわないまま、気持ちの整理をしなければならない。ドレスは、つらい死産を脇で見てきた助産師たちが発案した。最期に家族のぬくもりを感じてもらいたい、死を受け止める力添えになりたいという思いがこめられている。実際に我が子に着せた母親の家族からの手紙には「とてもかわいい旅立ちのドレスでした」と記されていた―。

◆繊細でもろい死産の赤ちゃんは抱っこできないこともあった

佐賀大学病院助産師・光石敬子さん「お母さんはわが子を亡くすと自分を責める。自分があのときこうしたからこういう結果になったと。でも死産は原因が分からないことが多く、お母さんのせいじゃないよ、赤ちゃんはあなたのおなかに来たくて来たよといくら言っても納得いかない方が多い」

日本で去年1年間に生まれた子供の数は約78万人(国の人口動態統計)。そのうち、産声をあげることもできず亡くなるケースは1万5000例に上る。取材した佐賀大学医学部附属病院では、1年で約160人の新しい命が生まれる一方、死産は年間10例から20例ほどある。死産は家族にとってつらい体験であるとともに助産師にとっても心苦しい瞬間だ。



助産師の新宮真子さん「産声が聞こえないのがわかっての出産になるので、陣痛の間も声かけに迷います。まだ死産は慣れません」

死産した赤ちゃんは、母親の「最後に一度触れたい」という願いすらかなえられないほど繊細でもろいことが多いという。

助産師の光石さん「死産の赤ちゃんはもろくて、普通の新生児でも首がすわっていないので抱っこしにくいが、もっと抱っこしにくい。見た目はかわいいが抱っこをしたいという要望には応えられないことがあります」

◆背板を入れて「抱っこができる」特別なドレスに仕立てた

家族に抱っこをさせてあげたい、その思いを実現するため、助産師たちは、特別な衣服を依頼した。熊本市にある「ReFREL」の代表・山本智恵子さんは、障害がある人などからの特別な要望を受け、服を仕立てる「スペシャルニーズ縫製師」だ。これまでに1000着を超える服を製作してきた。



ドレスをつくった山本さん「機能性があって助産師の目から見て使いやすいもの、お母さんのグリーフケアに関われるものを開発したいと依頼されました。2年くらい試行錯誤しながら開発しました。一番大切にしたのは“抱っこができる”ことでした」

助産師からの依頼を受けて開発したのが、「エンジェルドレス」です。ひとつひとつ手作業で作られたドレスは、死産した赤ちゃんでも抱っこできるように工夫が施されています。

ドレスをつくった山本さん「背板を入れてホールド感があるのが工夫した点です。肌触りや手に取ったときに柔らかく優しく感じられるよう気を付けました」