今回の参議院選挙で、候補者の主張が分かれているテーマのひとつが、「選択的夫婦別姓」だ。

夫婦が希望すれば結婚したあとも、それぞれ結婚前の姓でいられる制度で、もちろん相手の姓に変えたい人は変えてもいい。

物価高や経済対策に比べ目立ちにくいものの、「生きづらさを抱えている人がいる」「国連や経団連など様々な団体から実現を求める声が上がっている」という点でも、重要な争点であることに変わりはない。

法務省によると、夫婦同姓を義務づけているのは、世界で日本だけだ。

夫婦同姓を強制することで、いったいどんな問題が起きているのか。
労働法の専門家としてこの問題を研究している福岡大学・教授の所浩代さんに聞いた。

通称使用、ではだめなのか

記者
厚労省の調査では、およそ95パーセントが夫の姓を選択しています。女性が働く場面では旧姓、いわゆる「通称使用」を認める組織も増えています。通称使用ではだめなのでしょうか。

福岡大学 所浩代 教授(労働法)
「ビジネスネーム、通称、旧制使用が認められることが広がりつつありますが、現実にみればまだ65パーセントくらいの企業でしか通称の使用が認められていないので、4割の女性が希望しても名前を変更しなければなりません。4割は大きな数字だと思います。かつて10年ほど前に、高校の先生が「旧姓を使えるようにしてほしい」という裁判を起こしたことがありますが、認められませんでした。通称は、あくまでも勤め先である企業や組織が許した場合には使えるけれど、組織が許さない場合はその権利がない、ということなので、その不便さをどう考えるかは大事だと思います」

記者
よく言われるのが、姓を変えることによる「キャリアの断絶」です。

福岡大学 所浩代 教授(労働法)
「ビジネスネーム、いわゆる通称を使い続ければ、一つの組織ではキャリアは断続しないと思うんですよ、旧姓で理解されていますから。これから転職も多くなりますよね。A企業にいて結婚して会社にいる間は、キャリアは継続します。でも次の職場では、分かりません。通称が認められなかったということになればキャリアはリセットされてしまう。A社で築いてきた人脈や様々な活動はリセットされてしまって、B社に転職した時にだれも理解してくれない、自分から結婚したことを明らかにして、すべての関係者取引先に自分の私生活と一緒に名前が変わったことを伝えなければいけない。これはその非常にプライバシーだけじゃなくて様々な経済的な不利益を伴うと思うんですよね。フリーランスの方は、より自分の名前というアイデンティティーがビジネスに直結する。働き方が多様化して転職社会になるにあたって課題はさらに大きくなったという気がします」