王毅外相の発言と中国側の意図
訪日した王毅外相は、石破茂総理への表敬訪問をはじめ、各所で「抗日戦争・反ファシスト戦争の勝利から80周年」という歴史的節目について言及しました。
「過去の歴史を正しく理解し、向き合おう。」
この発言は、中国国内の世論を意識したものであり、反日感情が高まりやすい環境を念頭に置いたものでした。
実務的協力の開始と今後の展望
今回の日中外相会談では、グリーン経済や少子高齢化といった両国共通の課題について協力を進める方針が確認されました。国民感情の改善には、こうした実務的な協力を通じて信頼関係を築いていくことが重要です。
中国や韓国からのアクセスが容易な福岡は、かつて鴻臚館という迎賓館が存在するなど、東アジアとの歴史的なつながりを持つ都市です。福岡を舞台にした日中韓の対話が実現すれば、地理的な利便性や歴史的意義を活かし、地域間の相互理解を深めるきっかけとなるでしょう。また、東京や北京という政治的中心地から離れた場所での対話が、より柔軟で率直な議論を促す可能性もあります。
「いかなる時も顔を合わせる」ことの重要性
日中外相会談で岩屋外相が述べた「いかなる時でも顔を合わせる」という言葉は、国際関係において極めて重要なメッセージです。現在の日中関係には、政治的・経済的な対立や国民感情の悪化といった多くの課題が存在しますが、これらを解決する第一歩は対話の継続です。
特に、国民感情の悪化は、政府間の努力だけでは解消できません。両国民が互いを理解し、共感を育むためには、政治指導者が率先して交流を深める姿勢を示し、互いの国民がその姿を目にすることが重要です。
今回の日中外相会談では、さまざまな課題が議論されましたが、完全な解決には至りませんでした。それでも、両国の外相が直接顔を合わせ、率直に意見を交わしたことは、今後の関係改善に向けた第一歩といえるでしょう。
また、王毅外相の訪日が4年4カ月ぶりであったことは、いかに日中間の対話が途絶えがちであるかを示しています。これを機に、さらなる対話の場が増え、両国が共通の課題に取り組むことで、国民感情の改善や信頼関係の構築が進むことが期待されます。
福岡を含む地方都市が、今後の日中韓の対話の拠点として活用されることにも期待が寄せられます。歴史的な背景や地理的な利点を活かし、地域間の交流を通じて新たな関係構築のモデルを示すことができるでしょう。
「いかなる時でも顔を合わせる」――その言葉が現実のものとなり、日中関係がより良い方向へ進むことを願います。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。







