安部公房の生誕100年に合わせ、代表作『箱男』が映画化された。監督は石井岳龍監督(67)。改名する前は「石井聰亙(そうご)」と名乗り、半世紀近くパンキッシュな話題作を作り続けてきた、インディーズ映画の巨匠だ。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が福岡市で開かれた石井監督のトークショーを取材、9月3日放送のRKBラジオ『田畑竜介GrooooowUp』で伝えた。

インディーズ映画の巨匠・石井岳龍監督

『箱男』のポスタービジュアル=ⓒ2024 The Box Man Film Partners

インディーズ映画は、東宝や松竹といった大手の配給会社に頼らず、制作資金を基本的に自分たちで調達し、作っていくことを大事にしている映画です。興行的には、ほとんど成り立っていない映画が多いと思いますが、その世界で半世紀近く戦ってきた石井岳龍監督はすごいですね。最新作の『箱男』は、戦後を代表する作家の一人、安部公房の生誕100年に合わせた代表作の映画化で、8月23日から全国公開。福岡市ではユナイテッド・シネマキャナルシティ13で上映しています。

石井岳龍監督=ⓒ2024 The Box Man Film Partners

石井岳龍(いしい・がくりゅう)
1957年生まれ。2010年までは「石井聰亙」を名乗る。1976年、福岡高校を卒業後すぐに母校をロケ地として8ミリ映画『高校大パニック』を制作して注目を浴び、2年後には日活がリメイクし、共同監督を務める。1980年、日大在学中に長編『狂い咲きサンダーロード』を劇場公開。インディーズ界の旗手となり、1984年に制作した『逆噴射家族』はベルリン国際映画祭フォーラム部門に招待され、イタリアのサルソ映画祭でグランプリに輝く。

その後も『エンジェル・ダスト』(94年、バーミンガム映画祭グランプリ)、『ユメノ銀河」(97年、ベルリン国際映画祭招待・オスロ国際映画祭グランプリ)、『五条霊戦記GOJOE』(2000年)、『ELECTRICDRAGON80000V』(01年)を創り上げる。

2010年、石井岳龍と改名。『生きてるものはいないのか』(12年)、『シャニダールの花』(13年)、『ソレダケ/that’sit』(15年)、『蜜のあわれ』(16年)、『パンク侍、斬られて候』(18年)、『自分革命映画闘争』(23年)など、次々と話題作を監督している。

「もう二度とできないことをやろう」

最新作『箱男』のパンフレットには、「ジャパン・インディ・シネマの最前線を駆け抜けてきた鬼才」と紹介されていました。その石井監督が8月31日、古里・福岡市にある書店「ブックスキューブリック箱崎店」でトークショーに出演したので、行ってきました。聞き手は、ブックスキューブリックの経営者、大井実さんです。

ブックスキューブリック箱崎店で開かれた石井岳龍監督のトークショー

石井監督:時代は変わっていくので、「その時点で作ったものが、永遠に新しく、変わらない力、命を持ったものにしたい」という気持ちが強いんですよね。初めて見る方には、新作ですから。ただ、自分が監督した映画が、後の方たち見られると全く思ってなかったんです。当時ビデオもないですから、作ったら終わり。よっぽどの名作じゃない限り、リバイバルはなかったので。要するに、ちょっと演劇に近い感じで。

大井実さん:一回性に…

石井監督:そう、一回性ですね。だから、「もう二度とできないことをやろう」っていう思いがすごく強かった。「これを今、形にして残さなければ、永遠にこれはない」「それを誰もやらないんだったら、私がとにかくやりたい」。それは、今でも変わってないんですけど。

映画は、初めて見る方には新作だ。誰もやらないんだったら、私がとにかくやりたい。監督の言葉がとても面白いのです。「もう二度とできないことをやろう」と言いながら、リバイバルは当時なかったので「一回性」。永遠に残るものを一回性で作るという矛盾も、インディーズっぽいなと思って聞いていました。