世論も司法も「政治が決める」
新華社通信のウェブサイトには、読者の書き込みコーナーがある。「山西省で訴状を提出した」という詳しい記事のあとにある書き込みコーナーを見ていくと、「裁判を起こすのは当然だ」「日本は謝れ」などという声や、日本を汚く罵る言葉が並んでいる。
これも日本と違って、中国メディアのウェブへの書き込みは、自由にできない。当局が認めた内容の書き込みしか掲載されない仕組みだ。このことからも、当局の意向が働いているのではないか。
習近平主席は「中華民族の尊厳」を力説してきた。慰安婦問題は、まさに民族の尊厳が蹂躙された一大問題ととらえているかもしれない。中国国内においても、民族の感情として、容易に燃え上がる。それだけに今後、要注意のテーマではないだろうか。
中国の司法機関は、裁判所も含めて中国共産党の指導下にある。その中国の裁判所が訴訟を受理するかどうかが今後の焦点。今回の賠償請求訴訟を受理するか、しないかも、政治が決める。その判断、つまり政治判断も、日中関係の行方を占っていきそうだ。日本の外交官が「亡霊」と表現した問題が、さらに暗い影を落としているのは確かだ。
飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。







