ユーモアや風刺で1枚の絵に切り取るこちらの「一コマ漫画」、鹿児島市に半世紀以上にわたり、一コマ漫画を描き続けてきた92歳の漫画家・坂井せいごうさんの作品です。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって6月24日で4か月。自身も戦争を経験した坂井さんは、特別な思いで、今キャンバスと向き合っています。

車いすの鬼と散歩に繰り出すイヌ、サル、キジ。かつて桃太郎と一緒に懲らしめた鬼へのお詫びのしるしです。もーいーかーいもーいーかーい…。鬼さん達の鬼ごっこは「もーいーよ」を言ってくれる人がいないので、いっこうに始まりません。
ユーモアや風刺で1枚の絵に切り取る「一コマ漫画」。手掛けたのは鹿児島市に暮らす漫画家の坂井せいごうさん(92)です。
(坂井せいごうさん)「足腰が弱くなって、外出もできなくなりましたので、家にいて体操したり漫画考えたり。笑えるかどうか。その1点です」
20代の頃から作品を描き始め、時代や世相を切り取ってきた坂井さん。コロナ対策の消毒をウイルス目線で描いたものや、ロシアのウクライナ侵攻をうけ、最近は戦争や平和をテーマにした作品も。
薩摩川内市で幼少期を過ごした坂井さん。創作活動の原点には自身の戦争体験があります。1945年、15歳の時、海軍飛行予科練習生として山口の防府通信学校に配属されました。
(坂井せいごうさん)「予科練というのは特攻隊要員ですからね。飛行機に乗っていって、ぶつかる。あれをやろうと思っていたんですよ。もう飛行機がなかった。爆弾を持って戦車に体当たりするという訓練が始まった」
数か月後に終戦を迎え、薩摩川内市に帰った坂井さんが目の当たりにしたのは、変わり果てたふるさとの風景でした。
(坂井せいごうさん)「行くときにはあった川内の町がなくなっていた。川内中学も焼けていた。まちが焼き尽くされて、ひどい生活をみんな始めた」
中学時代からブラスバンドで演奏していたこともあり、終戦後は東京のクラブや進駐軍のキャンプなどを転々とし、音楽で生計を立てていました。しかし、20代半ばで結核を患います。
幼いころから絵を描くことが大好きだった坂井さん。療養中に、新聞の一コマ漫画に投稿したことがその後の人生を決めました。新聞で県知事賞をとって以降、連載のほか、テレビCMのアニメーションを手掛け、イギリス、カナダなど海外でも賞を受賞。
去年、自費出版した画集は、日本漫画家協会賞の「まんが王国・土佐賞」に選ばれました。
(坂井せいごうさん)「笑いの方がメッセージが伝わります。やわらかく入っていきますから。私なんか詩が書けない。じーんとくることはできない。大事なものです笑いは。笑った方がいいですよ」
ユーモアたっぷりの作品の中にもたびたび登場するのが、戦争がテーマの作品です。
(坂井せいごうさん)「花という平和な世界の中に、戦争が入っていっている、非常に嫌な絵です。平和と花の反対の世界ですね」
ロシアのウクライナ侵攻から4か月。ニュースで見る現地の様子は77年前の自分の体験と重なるという坂井さん。こちらは雑誌からの依頼で、先月、描き上げた作品「NOWAR」です。
(坂井せいごうさん)「赤ちゃんでもなんでもお構いなしですからね。私は平和な日本で描いてるから、そんな痛烈なものは出ないけど、せいぜいこれくらいのものです」
一コマ漫画に込める平和への思い。坂井さんはキャンバスに時代の空気を描いていきます。