一人で泣きづつけた場所 講演へ踏み出せた思い
親戚、友人、周囲の人たちにずっと温かい励ましや見守りをしてもらったが、簡単には打ち明けられない気持ちがあった。明るい新原さんが、一人で泣き続けた場所がある。
「いつも車で通る途中に、娘が田舎に帰ってくると“私この景色が大好きなんだ”という、両サイドに長く田園風景だけが広がる場所があります。そこを通るたびに車の中では大泣きしていました。」

突然、犯罪被害者となった新原さん家族を当時から支え、相談を聞いたのは鹿児島県警の犯罪被害者支援室と、かごしま犯罪被害者支援センターのスタッフだった。
ある時、寄り添ってくれたセンターの相談員から、「警察では中学・高校で命の大切さを学ぶ教室というのを開催しています。その教室で講師をしてもらえませんか?」という打診があった。「こんな私が人前で講演なんて…」最初は辞退した。
ただ、「中学・高校で」というところによぎる思いがあった。学校では、いじめや自殺の問題が起きることがある。長年保育士として働いていることもあり、子どもたちが「大大大好き」だ。いじめや自殺のニュースを見ると「いじめた子、いじめられた子の話を聞いてあげたい」と深く思う自分がいた。清加さんが巻き込まれた事件から、命について考えることもあった。
「自分の思いや娘の人生から、中学生や高校生に伝えられることがあるかもしれない。」そう思うようになっていた。折に触れて訪れてくれる相談員との会話も背中を押した。
そして2012年12月、地元の中学校で「命の大切さを学ぶ教室」の講師として初めて生徒たちの前に立った。事件から1年10か月が経っていた。