「心の病になり、薬を飲まないといけない人も世の中にはたくさんおられます。そういう方が家族にいる人もいるかもしれません。それは病気だから、誰でもそうなる可能性はあるんです。そういう方に偏見の目を向けたりは決してしないでください。そういう意味で、私たちも娘の事件の加害者に対しては“薬を飲んでさえくれていたら”と思うんです。」
その上で、「加害者に恨みはない」という言葉に込めた思いを話す。
「“一生恨んでやる”なんて言葉を聞いたことがありますが、どれだけ恨んでも、娘の命は戻ってきません。恨んでその人に仕返しできたとしても、その負の連鎖はずっとずっと続くばかりで、幸せになんてなりません。」

目じりににじむ涙をおさえ、強い意志を込めた口調で続ける。恨みを超えたところに心を置けるのは、清加さんを信じているからだ。
「亡くなった娘が、私たち家族に、加害者を恨み、憎み、悲しむ、そうやって暗い人生を送ってほしいと願っているとは思いません。だから、娘がいなくなってからは“遠い北九州にいる、めったに会えない娘”ではなく、私たち家族の一人ひとりの中にいつも娘がいてくれると思い、きょうまで笑って過ごしてきました。
娘が悲惨な事件に遭い亡くなったからといって、決して不幸になってはいけない。娘の分まで幸せに生きていかなくてはいけない、そう思っています。それが天真爛漫でとっても明るく、誰にでも笑顔を絶やさなかった娘の望んでいることでもあると、私は母親として、そう確信しています。」
ただ、最初から全てを受け入れ、常に心が静かだったわけではない。大きく乱れることもあった。