なんでもない風景に心惹かれることはないだろうか。
どこにでもありそうな通学路や坂道、川沿いの土手…。普段であれば気にも留めないような、何の変哲もない町並み。

ただ少し目を凝らし、そこに「人の息使い」が感じられた途端に見え方が一変するその瞬間がたまらない。

道路沿いのコンクリートの壁に無数のボールの跡を見つけたり、少し長めの坂道が地元野球部のダッシュのコースだったりすると、そこから立ち上ってくる溢れんばかりのエネルギーには圧倒されそうになる。

そしてこちら、海沿いの駅から見える、なんでもない防波堤と砂浜。夏にはここから花火も見えるというが、その一角にある猫の額ほどの砂浜…。じっと目を凝らしてみれば、そこには「無数の足跡」が刻まれていた。

そしてこれが「地元Jリーガー」達の砂浜特訓の跡だと知れば、その深く激しく盛り上がった砂の塊には、小さな町の希望も感じる。

愛媛県松山市の中心部から西へ10キロ程に位置する、梅津寺海岸。その一角で、1月17日、サッカーJ3・愛媛FC恒例の「砂浜特訓」が行われた。

新体制スタートから約1週間。フィジカル面の徹底強化をJ3・2年目、今年のテーマに掲げる中、選手の疲労も徐々に溜まり始める中での砂浜特訓。

短距離ダッシュや、前後左右へのステップ、さらにジャンプや腕立て、ヘディングなど様々な要素が盛り込まれ、選手たちは柔らかい足場に悪戦苦闘。悲鳴をあげる己の体に心で鞭を打ちながら、砂底を踏みしめ続けた。

かつて2015年、木山隆之監督時代に始まり、毎年恒例となっていった梅津寺海岸での「砂浜特訓」。

体幹はもちろん腸腰筋から心肺機能まで総合的に鍛えられる上、なによりチームの一体感が「悲鳴」の数だけ急上昇するだけにこの「儀式」は今年も、J2昇格へのカンフル剤となりそうだ。

(2023年1月17日取材 愛媛県松山市・梅津寺海岸)