おととし8月、当時61歳の父親を包丁で刺殺したとして、殺人の罪に問われている北海道深川市の29歳の男の控訴審で、札幌高裁は、被告の控訴を棄却しました。
 
 深川市の無職・工藤正嗣被告(29)は、おととし8月、同居する父親の隆俊さん(当時61)を包丁で刺して殺害した罪に問われています。

事件現場(おととし8月 北海道深川市)

 一審の旭川地裁は、工藤被告の軽度な知的障害の影響を考慮しても、犯行の動機は悪質などとして、懲役14年の求刑に対し、懲役11年の判決を言い渡しました。

 弁護側は刑が重すぎるとして控訴。6日に開かれた控訴審で「被告は、犯行後に自ら119番通報したことから自首が成立する」、「犯行は知的障害の影響が大きく、一審判決の量刑は不当に重い」などと主張し、減刑を求めていました。

父親の最期の言葉は「正嗣、愛してる」

 15日の控訴審判決で成川洋司裁判長は「一審判決は自首の成立を認めていないが、119番通報を被告側に有利な事情として酌んでいる」、「障害の影響についても一定程度考慮していて、不当に重い判決とは言えない」などとして、被告の控訴を棄却しました。

 主文を読み上げたあと、成川洋司裁判長は工藤被告に対し「取り返しのつかないことをしてしまった責任は、重いと言わざるを得ません」と語りかけると、工藤被告はまっすぐ裁判長を見つめ、黙ってうなずきました。

被告は事件後に「軽度知的障害」「広汎性発達障害」と初めて診断される

 この事件の一審で、検察が明かした聴取記録によりますと、父親は「やめろ」「助けて」と懇願し、手を前に出して抵抗したとされています。そして刺されながら父親は、最期に「正嗣、愛してる」と、工藤被告に向けた言葉を口にしていたということです。

 また工藤被告は、事件後に「軽度知的障害」「広汎性発達障害」と診断されていました。鑑定した医師は、障害の影響で、他者の言動を曲解する傾向にあり、コミュニケーションがうまく取れず、仕事も長続きしないなどストレスの原因になったなどと証言していました。
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