“自分の声”で話す当たり前の日常。でも、もし声を失ったら…。のどのガンで声を失った男性、でも「もう一度自分の声で話したい」そんな思いを叶えてくれたのはスマホのアプリでした。声を失った、がん・ALS患者の希望のアプリを取材しました。

“自分の声”で話してくれるアプリ


愛知県東海市に住む、藤田美佳子さん(51歳)。全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病、ALSを患っています。5年前に発症し、今では手がほとんど動かなくなり、足はかろうじて動かせますが、声を出すことも難しくなってきました。

(藤田さん)
「息苦しさとか、話しにくさが症状で出てきてる。不安だし、怖いし…」

そんな不安を抱える中、出会ったのが“自分の声”で話してくれるアプリ「コエステーション」通称コエステです。伝えたいメッセージを打ち込むと、



(アプリ音声)
「ふじたみかこです。よろしくおねがいします」

アプリには日本語などを抑揚なく読める自動音声が搭載されています。ユーザー(患者)がおよそ200の例文を読めば読むほど、AIが学習していき、自動音声がユーザーの声に近づいていきます。

藤田さんは全ての例文をすでに読み終えています。“声を失うかもしれない”将来を見据えて、自分の声を、このアプリに託しているのです。

(藤田さん)
「(声を失っても)家族とか友達とか、私の声で話すことができたらいいのかなと」

コエステの誕生と医療現場との関係


4年前にエイベックスなどがリリースした“コエステ”。スマホなどで、誰でも無料で使うことができますが、もともとはエンタメ要素の強いサービスでした。

(コエステーション・平林 執行役員)
「例えばカーナビとかだと、女性話者が淡々と言っていると思うんですけど、芸能人などの『好きな声で聴きたい』というのを叶えようと思って」


いまは病気で声を失った人も多く利用していて、コエステと医療現場の連携が進んでいます。

名古屋大学病院・耳鼻咽喉科の西尾直樹医師。喉頭がんと咽頭がんなどが専門で、声帯を摘出する手術を担当しています。

(西尾医師)
「声を取るのは慣れない、声はその人の人生になるので緊張するし責任はある」

手術後、無事終了だからねと声をかけます。声を失った患者とも向き合い続けていました。

もう一度自分の声で話したい

田島浩幸さん(62歳)。ことし2月、ステージ4の咽頭がんの手術を受け、声を失いました。

(田島浩幸さん)
「最初は、声はあきらめていました。ステージの4だとほとんど絶望的かなと思いました」

そんな時、西尾医師から勧められたのが“コエステ”でした。

(西尾医師)
「がんを治すというのはもちろん重要で、それはやらなければいけないですが、中々声を取った人は社会に復帰できない。何とかしたいという思い」



手術の1週間前。田島さんはスタジオを借りて3時間、自分の声をコエステ用に声を記録し続けました。“もう一度自分の声で話したい”そう強く思うのは、家族がいつも側で支えてくれたから。

高校の同級生だった鈴子さんと結婚。3人の息子にも恵まれました。家族のため、大型トラックの運転手を朝から晩まで勤め、もう40年以上になります。



手術を受ける数日前の映像がありました。生まれたばかりの孫・綾乃ちゃんに、自分の声で話しかけた最後の瞬間です。そして田島さん、手術前、家族にメッセージを残していました。

(田島さん)
「いつも心配ばかりかけて、本当にすみません。お母さん、鈴子さんもいつも心配ばかりかけてすみません。あと、佳祐も雅之も和貴も親がこういう病気したんで、あなたがたも十分体には気を付けて、今からも暮らして下さい」