認知症の人も自分のペースで、ゆっくり買い物を楽しんでもらおうという取り組みが、三重県鈴鹿市のスーパーで行われています。
各地で広がりをみせる、この取り組み現場を取材しました。

三重県鈴鹿市のスーパー「マックスバリュ岡田店」。
ボランティアと手をつなぎながら店内へ、ゆっくりと歩いていくのは安田日出子さん(63)。
安田さんは6年前に、若年性認知症と診断されました。

安田日出子さん
「きょうは何かな。楽しみ」
安田さんが、この日に訪れた訳は「スローショッピング」。
「スローショッピング」は元々はイギリスで始まったもので、認知症の人たちが安心して買い物ができるよう、ボランティアと一緒にゆっくり買い物を楽しむというもの。この店舗では月に1回、開催されています。

この日、参加したのは男女合わせて8人。
安田さんは簡単な自己紹介のあと、ボランティアの伊藤さんとペアを組んで早速、買い物へ…。

伊藤さん:「どこかな、玉ねぎ」
安田さん:「どこでしょうかね」
伊藤さん:「大きいの買うから重たいよ」
空間認知機能の低下により、モノとの距離を測ることが難しく、つまづきやすいという安田さん。
伊藤さんと手をしっかりつないで、売り場を探します。
伊藤さん:「ほら、あった」
安田さん:「あった?玉ねぎ?玉ねぎどこだ…、ここだ、やった!」

その後、向かった先は「おもいやりレジ」と表示されたレジカウンター。
店員:「213円でございます」
「おもいやりレジ」とは高齢者や子連れなど支払いに時間のかかる人が、焦らずにゆっくり会計できるというもの。

鈴鹿市では、この店舗の他に市内のスーパー8店舗で常設されています。
店員:「ゆっくりで大丈夫です」
安田さん:「ありがとうございます」

(安田日出子さん)
「(買い物は)ひとりでは無理です。みんなに助けてもらってできること。認知症になっても誰かの力をいただきながら、みんなと同じ、健常者みたいに生活できる状況を作ってもらえることがありがたい」
買い物や人との会話で受ける刺激で、認知症の進行を抑えることにもつながると期待されている「スローショッピング」。
鈴鹿市では65歳以上の高齢者のうち、約1割が認知症を患っていて、今後さらに増えることを踏まえ、去年「認知症フレンドリーシティ鈴鹿」を宣言しました。
(鈴鹿市 長寿福祉課 中上陽子課長)
「少しでも認知症にならないように、なっても症状の進行を遅らす取り組みとして、社会参加や介護予防の取り組みに力を入れている」

伊藤さん:「ゆっくりでいいからね、重いからね」
安田さん:「本当だね。ゆっくり、ゆっくり」
伊藤さん:「代わってほしかったら言ってよ」
お互いが助け合い、暮らしやすい街づくりを。地域が一丸となって取り組んでいます。