三重県の山奥に、手作りの罠を使って動物を仕留める「罠師(わなし)」がいます。広大な自然の中で動物の動きを読み、年間600頭の獲物を生け捕りにする罠師の男性。捕獲した獲物の肉は、熟練の技術により最高の食材へと変わりました。猟師の中でも「罠師」と呼ばれる仕事を取材しました。

一瞥するだけで「獣道がカーナビみたいにわかる」

三重県津市。山に囲まれた美杉町に暮らす罠師・古田洋隆さん(67歳)。狩猟だけで生計を立てる専業猟師です。この日は、獲物を仕留める準備。獲物となる動物の多くは、シカです。

(罠師・古田洋隆さん)
「人間の数よりもシカの数の方が圧倒的に多い」

害獣に指定されているシカ。エサを求めて人里まで降りてくるため、全国で車との事故が後を絶ちません。大きなシカだと体重は130キロになり、ぶつかれば車は大破します。

農作物への被害も深刻です。三重県伊賀市では田畑を食い荒らし、和歌山県では住宅の畑に現れ、我が物顔で家庭菜園を食い荒らす姿もみられます。農作物の被害額は年間60億9700万円(令和3年度・農林水産省調べ)に上ります。

そんなシカを自治体から許可を得て、年間約600頭を仕留めている古田さん。20キロを超える道具を担ぎ、山の奥へ向かいました。

(罠師・古田洋隆さん)
「足跡、これシカです。2日前ですね。(Q何日前に歩いたかも分かる?)分かります。土の色つや乾き具合、大きさは足跡で分かる」

一瞥するだけで、シカの行動が手に取るように分かると言います。

(罠師・古田洋隆さん)
「遠くの山を見ただけで、獣道がカーナビみたいに分かります」

わずか0.2秒!一瞬で獲物を捕らえる「くくり罠」 銃に頼らない理由とは

昨晩シカが歩いた痕跡を見つけ、手作りの「くくり罠」を取り出して罠を仕掛けました。

(罠師・古田洋隆さん)
「バネが中に入っていて、獣が踏んだら上がって足を縛る」

獲物を捕らえるまでにかかる時間は、わずか0.2秒。肉の鮮度を保つため、銃や檻には頼らず、罠で獲ることにこだわっています。しかし、罠の中央を踏まなければ獲物を捕らえることができないため、動物との知恵比べだと言います。

(罠師・古田洋隆さん)
「ここにワイヤーが見えている(罠)。これだけで(シカが)警戒して遠いところから分かります」

古田さんは、土や小石、木の枝などを使って罠を隠します。この日は周囲の山々に合計4か所の罠を設置しました。

そして一週間後、罠を仕掛けた時にはなかった足跡があり、鳴き声も聞こえました。古田さんがナイフを持ち近づくと、罠には1歳のメスジカが。

(罠師・古田洋隆さん)
「心臓の左心室の血管2本だけを切り取った」

肉の質を決定づける血抜き。古田さんは、急所への一刺しで獲物が必要以上に苦しまないようにしています。

(罠師・古田洋隆さん)
「人はものの命を頂いて、自分の命を繋いでいるわけですから、命を頂く代わりに最高の食材に変えたい」