「なんでかな、とは思ったけど、詐欺とは結びつかなかった」
事件の始まりは、3月31日だった。
女性の自宅に、大阪の郵便局員を名乗る男から電話がかかってきた。
「中国から荷物が届いています。パスポートやキャッシュカードが入っています。取りに来られますか」
身に覚えのない話だった。
「そんなものはありません」と答えると、男はこう続けた。
「詐欺の可能性があるので電話を回します。0を押してください」
言われるままに電話を操作すると、今度は警察官を名乗る男が出た。
「詐欺で逮捕した人物の家から、あなた名義のキャッシュカードが見つかりました。被害者は19人。あなたの口座に5000万円が入っている可能性があります」
突然、自分が犯罪に関わっているかもしれないと言われた。
「なんで自分にそんな悪いことの心当たりが全然ないのに、なんでかな、という気持ちばかりでした」
驚きと不安の中で、女性は相手の話を疑うことができなかった。
何より、大きかったのは最初の一言だったという。
「電話を取った時に、フルネームで名前を言われたんです。それで、もう全部信じ切ってしまって…」
きっかけは、ほんのささいなことだった。
苗字だけではない。下の名前まで正確に呼ばれたことで、女性は「本物だ」と思い込んだ。
後から振り返れば、不審な点はいくつもあった。
荷物が届いているなら、住所は分かるはずなのに、なぜ聞くのか。
なぜ大阪府警が、自分の資産を調べる必要があるのか。
それでも、その時は「詐欺」という言葉が頭に浮かばなかった。
「なんでかな、とは思ったけど、詐欺とは全然合致しなかったんです」









