富山県内の有権者が政治に何を求めているのかを探るシリーズ「争点の現場から」。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、参院選では自民党など多くの政党が防衛費の増額や防衛力強化を公約に掲げています。緊迫する国際情勢を背景に、今後の安全保障をどうするのか、日本は岐路に立たされています。
南砺市の山田秀三さん、104歳です。戦後、モンゴルに抑留されていた体験を持つ山田さんは、現在、全国強制抑留者協会の会長を務めています。
山田さんは、陸軍第九師団の一人として旧満州で航空燃料の警備を担当。終戦後そのまま旧ソ連の勢力下のモンゴルで2年半の間、まともに食事も与えられず、土木工事やレンガ作りを強制されました。
全国強制抑留者協会 山田 秀三さん:
「帰れるなんて思っておらんもんやちゃ、田舎のことも家のことも全然わからんようになってしもとった。子どもができたって聞いたけど、3か月ほどで死んでいった、顔も見んと」
山田さんは、抑留体験を通じて戦争の悲惨さを語り伝え、90歳の時に再びモンゴルを訪れました。
山田秀三さん(当時):
「こういう所に来てね、つらい思いをするがは何だったのかなと。まずは指導者やね。指導者が国民のことを考えてやっていただきたいと言いたいね」
山田さんは日々、ロシアのウクライナ侵攻のニュースを見て、今の日本の安全保障についてこう考えています。
山田さん:
「自分を守らんなんろ。やられてしまうね。国を守る時にはこれは仕方ない。戦争は絶対にしたらいかんです、戦争はしたらいかんですよ」
ロシアの侵攻に加えて、軍事力を増強する中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮など、日本の安全保障は岐路に立たされています。
参院選では、複数の政党が公約として防衛費を国内総生産・GDPの2%程度とすることを掲げています。日本の防衛予算は今年度、およそ5兆数千億円で、2%となるとほぼ倍のおよそ10兆円から11兆円となり、アメリカ、中国に続き、世界第3位の規模となります。
この防衛費の増額に危機感を強めているのが「富山大空襲を語り継ぐ会」の事務局長、柴田恵美子さんです。
77年前の8月、富山市上空で米軍は50万発以上の焼夷弾を投下しました。市街地は一瞬で火の海となり、推定3000人の命が奪われました。
戦後生まれの柴田さんは、長年、語り継ぐ会で戦争体験者の声を聞き、戦争の悲惨さを伝えてきました。柴田さんは日本の防衛力の増強が隣国との緊張感を高めて、戦争放棄、戦力の不保持を定めた憲法9条の改正への動きが加速することを懸念しています。
富山大空襲を語り継ぐ会 事務局長 柴田 恵美子さん:
「憲法9条が変えられたら大変だっていうことね、もう(改憲勢力が)3分の2になるかもしれないといってますから、それは絶対やめてほしい。そして防衛予算を倍にするのもやめてほしい。やはり77年間続いてきた平和の尊さをもう一度考えてほしい。9条変えたらどんなことになるかということをもっと自分の身に降りかかる問題として考えてほしい」
憲法学の専門家は、今回の参院選ほど「改憲」が公約の前面に出てきた選挙は初めてだと指摘します。なかでも焦点は憲法9条への「自衛隊の明記」です。
富山大学 宮井 清暢 名誉教授:
「自衛隊を憲法上に位置づけるということは、憲法の構造が大きく変わるわけですね。そのことによって政治のあり方も大きく変わるし、国民に対する影響も大きく変わる。例えばですけども、徴兵制を必要という議論になるかもしれませんね。今だって自衛隊員は不足していると言われているわけだから」
また、防衛費の増額については…
富山大学 宮井 清暢 名誉教授:
「2%にするといったら、その原資は何なんですかっていう。もしそれをやるんだったら国民生活に対して大幅な制約を課さないと無理ですよね。こういう時こそ、冷静に政治家や政党の言ってることを吟味すると」
一方、危機管理の専門家は、防衛費の増額に具体論がないことを問題点にあげています。
金沢工業大学大学院 伊藤 俊幸 教授:
「残念ながら防衛費の金額の話をしているだけで、そういう意味では(議論が)深まっているかと言われると私はさびしい限りかなと思う。現実的に起きそうなのは、中国による台湾侵略とかですね、こういったものがあった場合、わが党だったらここにどういう風な対応をすべきだと思いますとか、もう少し個別具体的に、その何でもかんでも日本がやられるなんていうのは飛躍した議論だと思いますね」
伊藤教授は、今の時代、経済安全保障や食糧安全保障なども含めて防衛予算の枠組みや金額を議論すべきと指摘します。
金沢工業大学大学院 伊藤 俊幸 教授:
「一番必要なのは、今回ウクライナ侵攻で新たにわかったように、サイバーだとか、認知戦だとか、無人機だとか、宇宙だとか、あらゆる最先端のことが起きてますよね。だから日本を守るためには、もっとそこに投資しなければいけないでしょ。でもその分まったく防衛費に入ってないんですよ。もっと現実を見て、どうやって国民の生命、財産を守るかということをもとに、広く議論してもらうことが私は一番必要だと思いますね」
どれほどの防衛力が必要なのか、憲法改正に踏み込むべきなのか。参院選の一票一票が、今後の国のあり方を左右します。
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