車いすインフルエンサーとしてSNSでの発信をはじめ、学校での講演やバリアフリーを広める活動など幅広く活躍している中嶋涼子氏に、SDGs達成期限の2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。
【前編・後編の後編】
「ハードよりもハートのバリアフリーを」。気軽に声を掛け合える社会に
――続いてお話していただくテーマは何番でしょうか?

中嶋涼子氏:
3番の「全ての人に健康と福祉を」です。
――この実現に向けた提言をお願いします。

中嶋涼子氏:
「ハードよりもハートのバリアフリーを」です。
――これを提言された理由は?
中嶋涼子氏:
環境が整っていて、どこにでもエレベーターやスロープがあって、どこへでも車いすで行けるようになったとしたら、ほかの人が障がい者の人に接する機会がなくなってしまう気がして。ハード面をバリアフリーにするのってすごくお金も時間もかかるじゃないですか。それよりも人の心がバリアフリーになったら、お金も時間もいらないし、30分お話しただけでみんながバリアフリーになると思っていて。もし階段があっても、みんなに「ここを持ってください」って言って手伝ってもらって、みんなで階段をのぼったほうが、みんなが心に壁のない人になれる気がするし、エレベーターを作るよりもそのままでいいから、手伝い合える社会のほうがどんな人も住みやすいと思います。

中嶋氏がハートのバリアフリーを初めて実感したのは、高校卒業後に留学したアメリカだったという。
中嶋涼子氏:
大学から留学していて7年ぐらい行っていたんですけど、街中で知らない人がすぐに「手伝おうか」って言ってくれたり、初めて会った知らない人と目が合っただけで「何で車いすなの」って言われるんですよ、壁がなくて。日本だと車いすにあえて触れちゃいけないような雰囲気がすごくあって、街中とかで子供が「あの人、何に乗ってるの?」ってお母さんに言うと、「すいません」と言われるんですけど、もっと聞いてよって思うんです。
――私達の周りに車いすを使っている方や障がいを持った方が、目に見える形でいる機会は確かに少ないんですね。
中嶋涼子氏:
ないですよね。私も歩けなくなるまで、見たことがほとんどないし、知り合いにもいなくて、街ですれ違うときもちょっと緊張するぐらいだったんです。アメリカではマイノリティと呼ばれる障がい者の方だったり、いろんな国の人とか、それが当たり前だったから何も思わなくなったんです。きっとみんな見慣れていけば、何も思わなくなると思うので、だからこそ自分は障がい者としてもっと人前に出て見慣れてもらえて、接し慣れてもらえれば、ハートのバリアフリーって広がるんじゃないかなと感じます。

帰国後、映画の制作会社で働き始めた中嶋氏。しかし、車いすユーザーが日本の組織の中で働くことの難しさに直面し、6年前に退職した。同時に、車いすインフルエンサーとして活動を開始した。中嶋氏には、多くの人に知ってほしいことが三つある。
――一つ目は「声をかけてくれることがうれしい」。

中嶋涼子氏:
日本には車いすや障がいがある人が街にいることがないし、触れ合う機会がないから、街で会ったときにどうしようってみんななっちゃうと思うんですよね。手伝いたいけど、声をかけていいのかなっていう感じでみんな見てるんですよ。それなら声をかけてほしくて。声をかけられたときは一日中うれしいんですよ。そういう日って、それがきっかけで一緒に電車に乗って会話する人とかもいて。気軽に声をかけてもらえるような社会こそがハートのバリアフリーなのかなって感じます。
――日本の会社で働くことが難しかったとありましたが、具体的にどういうところが?
中嶋涼子氏:
まずは通勤が。ラッシュ時に毎日通っていたんですけど、朝から電車に乗ると車いすで足とかたまに踏んで「邪魔だよ」みたいに言われることとか。みんな多分余裕がないからだと思うんですけど、毎朝「すいません」って言いながら乗っていて、もう会社に行くだけで心が疲弊してしまって。
電車に乗るときに駅員さんに言うとスロープを出してもらえるんですけど、そのスロープが来るまで20分とかかかるんです。それだけで遅刻しちゃうことも多々あったので、もう待っていられないと思って、ある日、勝手に行こうとしたら結構段があったから、その場でいい人そうな人を見つけて、「すいません、押してもらえますか」って言って。ちょっと押してもらえるだけで、私の場合は手動車いすなので、普通に乗れちゃうんですよ。
その日から毎日、いろんな人に「すいません、押してください」って声をかけるんですけど、たまに「えー!」とか「どうすればいいんですか」とか。みんなすごく急いでいるんですけど、「ここを押してください」ってチームワークみたいになって、みんなで乗れたときになんかうれしいんですよ、自分としては。多分その人も初めて押してびっくりしたけど、次からどうやって押していいか、ちょっとわかるようになるじゃないですか。それってお互いにすごくいいことじゃないのかなと思って。だから、そうやって生きていきたいと。
――例えば駅で戸惑っても押した方は、その日とても幸せな気持ちで過ごせたんじゃないかと思うんです。
中嶋涼子氏:
私も幸せなんですよ、そういうときに手伝ってもらえると。お互い幸せになれますよね。
――声をかけて断られたり、間違った方法で転ばせてしまったりということを考えているうちに、その方は行ってしまったりするんですよね。どうしたらいいでしょうか。
中嶋涼子氏:
たまに「大丈夫です、1人で行きます」みたいなタイプの人もいるんですけど、大半の人はうれしいので、断られてもまた声をかけ続けてほしいです。














