地下鉄の銀座一丁目駅から8番出口の細長い階段を上りきると、視界がパッと広がった。西日を受けてオレンジ色に染まったビルの間を銀座通りがまっすぐに伸びている。

道の反対側には、赤いクリップの文房具店、伊東屋。時代を越えて通りの景色に溶け込む佇まいには懐かしさを覚えるが、視線を先に送ればシャネル、ブルガリ、ルイ・ヴィトンと、眩いばかりのショールームが立ち並び、今やインバウンドの賑わいとともに時代の移り変わりが感じ取れる。

ただ銀座と言えば、やはり「4丁目交差点」へいざなう不動のラインアップだ。書店の教文館、宝石のミキモト、音楽の山野楽器ときて、パンの木村家を過ぎれば、鎮座するのは和光のビル。セイコーの時計塔を見上げれば、昭和にタイムスリップしたかのよう。さらに向かいの三越、交差点反対側の日産、西の角には立替え工事中の三愛や鳩居堂が、今も銀座の歴史を見つめている。

そんな銀座通りの歩道にはガードレールがない。銀座百店会が発行している小冊子「銀座百点」によれば、それは「歩く人たちが“銀ぶら”を満喫するため」だそうである。そう、銀座は“歩く町”なのだ。

その銀座が、この日ばかりは“走る町”になる。

10月15日、パリ五輪への切符をかけた一発勝負のフルマラソン「MGCマラソングランドチャンピオンシップ」。65人の国内精鋭ランナー達は、そのコース上「銀座4丁目交差点」を実に4度に渡り駆け抜けるのである。

その銀座のど真ん中を、先頭で駆け抜けていくのはいったい誰か―。最も注目を集めているランナーがいる。

鈴木健吾選手(富士通)

愛媛県宇和島市出身の“マラソン日本最速ランナー”だ。