韓国の情報機関 「国家情報院」の“暴走”

一方、韓国の情報機関の実態はどうなっているのか。実は暴走とも言える事件が起きている。

これは韓国の尹大統領が就任後初めて情報機関「国家情報院」を訪ねたときの写真。中央の奥の壁には19この星が刻まれている。何を意味するのか。

チャン・ユシク弁護士
「国家情報院に設置されている「名も無き星」と呼ばれている慰霊碑です。海外での秘密工作中に犠牲となった、名前が明かされていない、秘密要員を追慕するための慰霊碑です。このような慰霊碑が設置されていることから、海外での秘密工作が通常行われていると推測することができます。国家情報院による工作活動は当然必要です」

20年以上にわたって情報機関の監視活動を続けてきたチャン・ユシク弁護士は、国家情報院は、海外で秘密工作活動を行っていると考えられるし、それは必要なことだと話す。しかし、その工作活動の矛先が、国内政治に向けられた時があった。それは2012年の大統領選挙…

チャン・ユシク弁護士
「組織的な世論工作です。国家情報員が政治に介入し、大統領選挙に影響を与えようとしました事件がありました。国家情報院内部に、世論工作チームが存在していたのです。国家情報院の要員だけではなく、国家情報院は密かに民間人を雇用し、野党候補を誹謗するインターネットの書込みを組織的に行った実態が明らかになりました」

更に、国家情報院は、自らが持つ「捜査権」を乱用し、スパイ捏造事件を次々に起こしたという。それは北朝鮮への危機感を煽り、自らの存在感を誇示するためだったというが…。

チャン・ユシク弁護士
「韓国の情報機関は、組織の存在感を誇示するために数多くのスパイ捏造事件を起こしています。たとえば、中国出身でソウル市の公務員として働いていた男性をスパイにでっちあげようとしたのです。中国にある協力者と共募し、彼の出入国記録を捏造し、罪のない市民をスパイとしてでっちあげた事件があったのです」

一連の事件を受け、2020年に、国内情報を収集する権限や捜査権を失わせ国会への報告義務を課す法改正が行われた。しかし、チャン弁護士は、現在の文民統制では限界があり民間も参加する外部機関が必要だと訴える。

チャン・ユシク弁護士
「国会がもっと統制を強化すべきだと思いますが、国会議員は任期4年ですので専門性がありません。専門性のある人が情報機関を統制するシステムが必要ですし、違法な情報活動をいつでも見つけられるものが必要です。監督委員会のようなものを作って、官民が一緒に参加して国家情報院の秘密活動に対して徹底した秘密保持の下で監視するシステムが必要だと思います」

情報機関とシビリアンコントロール

民主主義国家において、情報機関の活動をどのようにコントロールするのか、シビリアンコントロールのあり方は常に課題となる。日本も同様だ。春名氏は、民主主義と秘密主義のバランスが必要だと話している。石井氏は「別班の存在を認めることが第一歩になると言う。

国際ジャーナリスト 春名幹男氏
「政府というのは秘密を握っています。個人情報も含めて明らかにしてはならないものがある。従ってあの国民は、政府に秘密を託しているという面がありますが、その秘密の情報はできるだけ少ない方がいい。国民の民主主義的な生活に社会を実現するには、秘密はできるだけ少なくしてほしい。秘密主義と民主主義、その一方に偏るのではなくて、ある程度秘密主義も生かしながら民主主義をできるだけ拡大していくというバランスを考えてほしいと思います」

共同通信 石井暁 編集委員
「別班に関して言いますと、軍隊じゃないですけど軍事組織なので秘密はある。それは認めますが、だからと言って嘘を言ってはいけない。過去も現在も存在したことがないなんて嘘を言ってはいけない。首相にも防衛大臣にも秘密なんていうことが通るわけがない。民主国家でそんな道理は通らない。民主国家の軍事組織で一番大事なのは文民統制ですから、総理大臣も防衛大臣にも本当のことを言って認めると。それが第一歩であると思います。別班の存在を 認めた上でどうやっていくかっていうのは国民的に 議論する国会でも議論していくということだと思います」

(BS-TBS 『報道1930』 9月19日放送より)