ドラマのヒットでにわかに注目される自衛隊の秘密組織“別班”。ネット上でもその存在の有無が取り沙汰されているが、菅義偉元総理は官房長官時代会見で「これまで自衛隊に存在していないし現在も存在していない」と否定した。
しかし、防衛庁長官と防衛大臣どちらも務めた石破茂氏は週刊誌の質問には「存在している。してなきゃおかしいだろ」と答えていたが、テレビ番組では「あるともないとも言えませんがね」と明言を避けた。
実際に“別班”の元隊長や元隊員を取材したというジャーナリスト黒井文太郎氏は「冷戦時代、陸上自衛隊・情報二部・特別勤務班という部隊があり、通称“別班”と呼ばれていた」と語った。元隊長の一人、平城弘通氏は正しい情報を残しておきたいとの思いから『日米秘密情報機関』を上梓した。そこには「(別班の)工作資金は貧弱で内閣調査室などに比べ一人当たり10分の1以下だった」とあった。どうやら、すくなくとも過去に存在していたことは確かなようだ。
では現在はどうなのか…。ドラマのような違法行為を含めた工作活動は行われているのか…。日本の情報機関に精通した専門家たちと日本のインテリジェンスを議論した。
「5年半取材した記者…“別班”は存在していて、海外にも拠点と確信」
いわゆる“別班”について2013年に共同通信が報じている…。
数十人で構成される陸上自衛隊の情報部隊で、ロシア、中国、北朝鮮に関する軍事・政治・治安情報の収集活動をする。海外ではロシア、中国、ポーランドなどに拠点を置き、派遣される隊員は他の省庁の部員や商社マンを装うこともある。
この記事を書いた共同通信の石井暁氏は「総理も防衛大臣も知らない組織と聞いて取材をはじめ約5年半で記事にした。取材の途中、陸自の将官から「ホームで電車を待つ時、最前列に立つな」と言われた。石井氏に改めて“別班”の存在について聞いた。

共同通信 石井暁 編集委員
「50人くらいに取材。うち元班員が10人前後、あと防衛省自衛隊幹部、政権中枢も含めて取材した結果“別班”はいまだに存在していて、海外に拠点を設けて活動している確信を持てたので記事にした」
石井氏は“別班”は実在するという。そして冷戦時代に存在した情報二部・特別勤務班よりも予算も組織も拡充したものになっているという。ただドラマとはだいぶ違うようだ。
共同通信 石井暁 編集委員
「あくまでも情報収集活動で、破壊活動を含めた工作活動はしていません。私は聞いていません」
工作活動はしないが、違法行為を絶対しないということはないという。しかし、部隊の存在を本当に総理大臣も防衛大臣も知らないのだろうか。
共同通信 石井暁 編集委員
「(総理にも防衛大臣にも報告する習慣はない)石破さんは大臣2回やっているわけです。そのくらいやると何となく耳に入ると思います。だから週刊誌に口が滑っちゃった。防衛省内でも背広組、例えば防衛政策局の調査課長やったとか、情報端にいた人とか、幕僚長になった人とか、そのラインの人とかは(別班の存在を)知っていると思います」
黒井文太郎氏によれば“別班”の始まりは、米軍の調査部隊に自衛隊が協力したというものだった。つまり米軍と自衛隊の合同部隊だったので存在自体が非公然だった。なので、日本政府としても存在を認めるわけにはいかなかった。

共同通信 石井暁 編集委員
「スタートの時点で秘密にしちゃった。代々の政権が“存在しない”という見解を繰り返してきちゃったので、今更“ある”とは言えないという経緯ですね。(―――シビリアンコントロールという側面からは?)それが最大の問題です。“別班”というのが、本来自衛隊最高指揮官である総理大臣、それを補佐するべき防衛大臣にその存在すら言わずに勝手に海外に拠点を設けて情報収集活動している。これは明らかにシビリアンコントロール文民統制の逸脱だと思います」
問題点を残しつつも実在する“別班”。ドラマの中では、あらゆる面で優れた超エリートだけが選ばれるという設定だったが、実際は、どんな人たちが“別班”になるのだろうか?
“別班”の養成所『心理戦防護課程』
東京の小平駐屯地内に陸上自衛隊情報学校がある。かつては小平学校という名だった。その中の『心理戦防護課程』こそ“別班”の養成所だ。(旧陸軍中野学校の流れをくむ教育が行われているともいわれている)ここで教えていたこともある落合浩太郎教授に聞いた。

東京工科大学 落合浩太郎 教授
「2018に改編されて(小平学校から)情報学校になった。当時はホームページがあって誰でもアクセスできて、そこには『心理戦防護課程』というのがあるって書いてあった。その頃石井さんの”別班”のことを書いた本が出た。ところが面白いことにいつだかわからないんですが、外部の人間がホームページにアクセスできなくなった。(中略)富士学校とか他の学校のホームページは見られるのに…。石井さんの本のせいかわかりませんけど…」
石井氏の著書によれば、『心理戦防護課程』に入るのはかなり難関で、その中でもトップクラスの者だけが“別班”に呼ばれるという。
共同通信 石井暁 編集委員
「基本的に発足以降極めて優秀な人だけがこの『心理戦防護課程』に入る。そこで教育を受けて首席に近いような成績の人たちが“別班”に入れる」