「どうやら危ないことをやらされるって…」
情報機関に詳しい国際ジャーナリスト、春名幹男氏は石井氏の著書に登場する元別班員と交流があったと明かした。

国際ジャーナリスト 春名幹男氏
「本人は“別班”の人間だとは言わなかった。もう亡くなっている。坪山さんっていう方で、1983年の金大中事件に少し関わった。もちろん拉致にはかかわってないですが…。(坪山さんは)自衛隊を辞めて調査会社をやっていたところ、当時の在日のトップに頼まれた、『金大中がどうやら日本にいるらしい、探してくれ』って‥。彼は色々探したけど見つからなかった。ある記者にも頼んだら、彼が朝鮮総連に聞いた。そしたら『ここにいる』って、分かった。坪山さんがそこに行ったらいたんですね。それをKCIAの人に伝えた。するとよくやったって小切手渡された。見たら2000万円。それをあげると…。坪山さんは探しただけなのに多すぎる、どうやら危ないことをやらされるって…、ピストルも持っていた感じで…。それで彼は小切手を返して断ったので、KCIAが自ら拉致をした、ということなんですよ。それから坪山さんは当時の後藤田(正晴・官房長官)さんに呼び出されて『元自衛官だが、君はもう身を隠したほうがいい』といわれて寒村に行った…。」
別班を辞めた後に“危ない橋”に関わることがあったというが、現役時代はどうだったのだろうか。
日本の情報機関の諜報活動…実力派の「別室」と、機能は果たしていない「内調」
アメリカの情報機関といえばCIA(中央情報局)と国防総省の情報機関NSA(国家安全保障局)が知られるが、日本では情報機関そのものがあまり知られていない。“別班”が所属するといわれる防衛省の情報本部約2000人。これが一番所帯は大きい。他に、警察内の公安部約1100人。法務省の公安調査庁約1700人。外務省で情報を扱う部署に約80人。その他在外公館などの駐在員が約3600人などなど。これら各省庁からの情報を集約・分析するのが約170人からなる内閣情報調査室(内調)だ。本来ならこの内調が“日本のCIA”と呼ばれてしかるべきなのだが、実情は違うようだ。

国際ジャーナリスト 春名幹男氏
「非常に重要で外国も頼りにしているのが防衛省の“別室”です。情報本部の中にあって“別班”ではなく“別室”。調査別室(調別とも言う…現在は電波部)って言うんですけれど、通信の傍受をする。1983年の大韓航空機撃墜事件で、ソ連の戦闘機と地上のやり取りを“別室”が傍受した。これを全部録音している。“撃て”というのも、全部…。これをアメリカ側にくれといわれ後藤田さんが“しょうがない”って言って渡した。アメリカはこれを国連安全理事会でこの録音を流した。これでソ連がやったのは間違いないと証明されたんです」
このように優秀な情報収集能力がある日本だが、問題は組織の連携の悪さだという。
各情報機関が収集した情報がすべて内調に集められれば本来の機能が果たせるはずだが、それが難しいようだ。
東京工科大学 落合浩太郎 教授
「内調が本来の機能を果たしていると思っている人は一人もいない。他の役所が情報をあげてくれない。内調は(分析が仕事で)自分で情報収集できない。(中略)これは政治の問題。政権が本来の使い方をしていない。内調の主な仕事は海外の情報の分析ではなく、週刊誌の早刷りを手に入れて政権にマイナスなニュースはないか探ることだなんて言われるくらいですから…」