『嘘つき』と言われても仕方がないような大幅利上げとなりました。パウエル議長が「0.75%の利上げは議論のテーブルに乗ってない」と述べたのは、わずか1か月前のこと。6月、7月は0.5%の連続利上げと、事前に金融政策の方向性を示していたにもにもかかわらず、アメリカの中央銀行であるFRBは、15日、通常の3倍にあたる0.75%もの利上げに踏み切りました。決定後の記者会見で、その点を繰り返し聞かれたパウエル議長は、「予想に反してインフレが止まらず、特にインフレ予測が著しく上がったので強力な行動をとることが妥当と判断した」と苦しい説明でした。
今回は、直前に発表された5月の消費者物価が、前年同月比で8.6%の上昇と大方の予想に反してインフレが加速、しかも、これが、金融政策決定会合直前の「ブラックアウト」期間というタイミングだっただけに、一層市場の疑心暗鬼を誘いました。ブラックアウトとは、金融政策決定会合の前後の一定期間は、FRBの高官が公に情報発信してはならない期間のことで、金融政策決定の公正さを保つと共に、決定の効果を高めるために設けられている、いわば「沈黙の期間」です。このためパウエル議長らは、今回の0.75%利上げを事前に示唆することができず、その代わりに(と言っては何ですが)、WSJ(ウォールストリートジャーナル)紙が13日に「0.75%利上げを検討」という特報を掲載、そのおかげで金融市場は、この動きを「織り込み済み」にすることができました。そうでなければ、発表当日、市場は大混乱に陥っていたことでしょう。厳密にいえば、FRBの高官が全く何も話さなければ、さすがのWSJもこうした記事は書けなかったでしょうから、ルールすれすれのことまでやって、今回の異例の大幅利上げを乗り切った形です。
「嘘つき」といえば、FRBの見通し(予測)も「嘘」の連続です。今年末時点でのFF金利の見通しは、今回、3.4%と、前回3月時点の見通し、1.9%から大きく上方修正されました。その前の去年12月時点では0.9%の見通しでしたから、この半年間で2.5%、つまり通常の利上げ(0.25%)の10回分も上振れしたことになります。エコノミストの見通しとは呼べないほどの、激しいはずれ方です。
今回の0.75%利上げ後のFF金利は、1.5%~1.75%ですので、年末に3.4%にするためには、さらに1.5%以上もの利上げが必要です。すなわち、次回7月に0.75%、残るの年内3回(9、11,12月)ですべて0.25%利上げをしても、まだ届かない水準です。これだけ急速に利上げをすれば、成長率が落ちるのは当たり前で、FRBの見通しでは、今年のアメリカの実質GDPは1.7%増にまで減速するとしており、去年12月時点で4.0%成長を見込んでいたのとは大違いです。アメリカの潜在成長力を考えると1%台の成長は異常に低い数字で、景気後退が視野に入ってきます。
パウエル議長は、引き続き、インフレを抑制しながら景気後退を招かない、いわゆる「ソフトランディング(軟着陸)」は可能だとしていますが、その可能性は徐々に狭まっています。そして、ここまで見通しをはずし続けたFRBへの信認が落ちてしまうと、その間に、金融市場で予期せぬ波乱が起きるリスクも高まっています。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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