アイペフ=IPEFという耳慣れない単語が、バイデン大統領来日やクアッド首脳会談が開催された外交ウイークのニュースの見出しを飾りました。IPEFとはインド太平洋経済枠組みの略語で、アメリカが提唱した新たな経済連携の枠組みです。アメリカがTPPから離脱した後、インド太平洋地域の経済にアメリカが関与する枠組みがなくなったことを受けて、アメリカ自身が提唱して、今回の一連の会合で立ち上げられました。
IPEFには、これまで多国間の経済枠組みに入ることを嫌がっていたインドが入った上に、アセアン10か国中、後進3か国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)以外の7か国が参加、これに日米韓豪とニュージーランドと、事前の予想を大きく上回る13か国が名を連ねました。IPEFをアメリカによる対中国包囲網と警戒するインドやアセアン各国を取り込むために、日本は岸田首相の各国歴訪など参加国集めに奔走したことが功を奏しました。
その一方、中台対立に利用されることを恐れるアセアン各国に配慮して、半導体のサプライチェーンで最も重要な役割を果たす台湾の参加は見送られ、ウォールストリートジャーナル紙は社説で「台湾をめぐるバイデン氏の真の過ちは、台湾防衛についての失言ではなく、IPEFに台湾を含めなかったことだ」と論じています。
IPEFの最大の特徴は、これまでの経済連携が中心に据えて来た、関税引き下げ交渉などの市場開放が対象になっていないことです。デジタル分野の他、労働条件や環境といった貿易に付随するルール作りなどはテーマに入っているものの、最大の市場であるアメリカ市場が一層開放されるという「うまみ」は参加国にありません。
これはTPPからの離脱に代表されるように、アメリカの世論が、今、新たな多国間の自由貿易協定に入ることを許す状況にないからです。にもかかわらず、インドやアセアン各国が参加したのは、サプライチェーンの構築や、脱炭素などのインフラ整備といった対象分野で実利があるかもしれないこと、そしてこの地域で影響力を強める中国とのバランスを取る意味で、アメリカの関与が全くないのは好ましくないと判断したからです。
このようにIPEFはTPPにアメリカが復帰しない中での、次善の策という性格の濃いものです。それでも何もないよりはずっと良いわけですし、4分野の協議もこれから始まり、中身はこれからです。参加国集めで果たしたのと同様、その議論をリードして、域内各国の期待をアメリカに伝える役割が日本に求められています。
さらに、アジア太平洋地域の経済発展を導いてきた自由な貿易や投資を、域内で一層進めることも、日本の重要な役割です。確かに今は、中国やロシアとなどとの「分断」によって、「経済安保」の体制を作りあげることに焦点があたっていますが、民主主義と市場主義を掲げる、西側など「大勢の世界」では、引き続き、自由な貿易と投資が促進されるべきであることに変わりはないからです。保護主義を排して自由な貿易、投資を進めることが、「奇跡」と呼ばれるほどの成長を実現してきたことはアジアで実証済みです。「大勢の国々」が権威主義国家以上に成長し、繫栄することこそが、権威主義国家と対峙する最大の武器になるはずです。今、注目を集めるIPEFの枠組みだけにこだわらず、TPPへの参加国の拡大を始め、重層的な取り組みが重要です。
アメリカの相対的な力の低下が否めない中で、通商国家としての日本に求められる役割はこれまでとは比較にならないほど大きくなっています。
注)なお、米ホワイトハウスは26日、大洋州島しょ国のフィジーがIPEFに参加すると発表、参加国は14か国になりました。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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