脳科学者・茂木健一郎さんも絶賛しているという、その活動とは?
「右側が低い、…Little bit higher(ちょっと高めに)。」
3月、美術館で、ある展示会の準備に取り組んでいたのは、鳥取県米子市出身の大学生、渡邊莉瑚さん(23)。
1年半前にスタートさせたプロジェクトの、集大成の日が近付いていました。
渡邊さんが活動していた拠点は、澄んだ青空が印象的な国、「レソト王国」。
日本からおよそ1万3000キロ離れた、アフリカ大陸の南部に位置する、九州ほどの小さな国です。
国土の大半が山岳地帯で、別名「天空の王国」とも呼ばれています。
渡邊莉瑚さん
「羊とか牛が道を横切るので、車が一時停止みたいなことはよくありましたね」

渡邊さんが滞在したのは首都から車で2時間、さらに山道を2時間歩いた先にあるハ・セカンツィという村です。
渡邊莉瑚さん
「家畜の世話とか家事の手伝いを子どもが当たり前のようにやっているんですね。それが就学率の低さにつながっているというのもあって。片道2時間かけて学校まで行っていたっていう現状がありました」
レソト王国の中等教育の総就学率は54.3パーセントと低水準。(※ユニセフ:2019年時点)
渡邊さんは、子どもたちが通いやすい教育施設を村に建てるためクラウドファンディングで資金を募りました。
無事、目標金額を達成し、現地では喜びの声が上がりました。
子どもたち
「日本の皆さん、温かいサポートありがとうございます。とても嬉しいです」
同時に、子どもたちに視野をもっと広げてもらおうと、渡邊さんは、あるプロジェクトを進めました。

渡邊莉瑚さん
「本当にカメラを触ったことが無い子どもたちだったので、初めて手にしたときはすごい喜んでいました」
子どもたちが手にしたのは、「カメラ」。
子ども自らが写真を撮ることで、レンズを通して新たな視点を発見してもらおうという
教育プログラムです。
この取り組みを、脳科学者・茂木健一郎さんも絶賛。渡邊さんのクラウドファンディングを支援しました。
脳科学者 茂木健一郎さん
「莉瑚さんみたいにいい活動している方って、ツイッターがすごくて、何かで流れてくるんですよね。でフォローして、レソト王国で頑張っている女子大生がいるんだと思って、応援したいなと思ったのがきっかけなんですけどね」
「前頭葉のメタ認知っていう自分自身を他人の目線で見る。この働きが写真を撮ることで促されるんですよね。人間の脳にとって他者と出会って自分を知るってことが、人生において一番役に立つと思うので」

2022年1月に帰国した渡邊さん。
地元・米子市内の印刷会社で、ある企画の打ち合わせに臨んでいました。
現地の子どもたちが撮影したレソトの写真を集めて、写真展を開こうというのです。
およそ600枚もの写真から、100枚を選び抜きました。
渡邊莉瑚さん
「村には電気が通ってないので、ソーラーパネルを持っている家庭があって。壁を塗ったり床を塗ったりするのは女性たちでした」
村の人のたくましさや、助け合いから生まれる人と人との距離の近さに、渡邊さんは魅了されたと言います。
そして3月18日、写真展当日を迎えました。
米子市美術館で開かれた展示会では、来場者は、1枚1枚真剣なまなざしで写真を見つめます。
来場者は
「当たり前に使っていたカメラとかが、他の国で当たり前じゃない」
「貧しいのかもしれないけど、幸せそうで。胸がいっぱいになりました」
翌日には、この話を聞きつけた駐日レソト王国の特命全権大使も、会場へやってきました。
駐日レソト王国 パレサ・モセツェ特命全権大使
「まさにレソト王国の田舎の生活そのものです。活動した渡邊さんに感謝しています」

この取り組みを将来的にも持続できるようにと、すでに法人まで立ち上げている渡邊さん。
まずは写真展で販売した写真集などの収益の一部を村の子どもたちに送る予定です。
渡邊莉瑚さん
「子どもと子どもの交流をやっていきたいなと思っているので、写真と写真の交換とか、レソトでもやった手紙の交換というのを他の国でもやっていきたいなと思っています」
子どもたちが発見し、切り取った写真で、渡邊さんはこれからも村と世界をつなげていきます。