「昔は1年間に何万人も来ていた」上流の橋が完成する2025年度に廃止される見込み

午前10時、一宮市に嫁いだ娘に誘われて大阪から6人家族が来ました。92歳のおばあちゃんから1歳の赤ちゃんまで4世代での乗船です。

この渡し船、今は生活の足ではなく主に観光やレジャーでの利用になっていますが、それも時代の流れとともに減り続けています。

(船頭・秋江利幸さん)
「ものすごく減りました。10分の1になった、今から15年前と比べると。もっと昔は1年間に何万人も来ていたけど」

2011年度には4263人いた利用者は、2021年度には1777人と10年で半分以下に。かつては川で隔てられた地域をつなぐ文字通り生活の橋渡し役だった“渡し船”。

渡し船は木曽川にも20ほどはありましたが、高度成長期、自動車の普及とともに各地に大きな橋が作られたことで役割を失い、次々に廃止されていきました。木曽川で唯一残っているこの西中野渡船も…。

(船頭・秋江利幸さん)
「あれが新濃尾大橋です。工事中。(Qあれができると?)完全にここはなしになる」

現在、西中野渡船場の上流で建設が進められている新濃尾大橋(仮称)は、2年後の2025年度に完成する予定で、この新たな橋ができれば愛知県は「西中野渡船」の廃止を検討しています。

最後は「中野の渡し」を知らない人にこそ乗ってほしい

秋江さんは2年後の橋の完成を待たず、3月いっぱいで船頭を引退することを決めました。

(船頭・秋江利幸さん)
「(Qこの階段の上り下りは苦にならない?)多少苦になる。5年か10年くらい前は苦にならなかったが」

午前11時、一宮市内に住む40代の夫婦が自転車で来ました。橋が完成し、渡船場がなくなってしまう前に、高校生と小学生の2人の子どもに渡し船を体験させてあげようと下見も兼ねて訪れたと言います。

(40代の夫婦)
「初めて乗ったけど静かでいいね。眺めもいいしさ。さみしいですね、昔からずっとあったものがなくなっちゃうので」

午後になると羽島市側の手旗が揚がりました。秋江さんは、羽島市側へ船で迎えに行きます。

(旗を揚げた人)
「きょう初めてです。(Q本当に船が来るか心配じゃなかった?)船が動き出すまでは心配だった。手を振らなくてはあかんかなと」

午後4時、日が傾き始めると利用者はほとんど来なくなります。引退まで残り1か月半、そして西中野渡船の廃止まであと2年。秋江さんの今の思いを聞きました。

(船頭・秋江利幸さん)
「時代の流れなので仕方ない。地元の人でも意外と『中野の渡し』があることを知らない人もいる。本当に最後はそういう人に乗ってもらいたい」

廃止までのカウントダウンが始まる中、きょうも乗客を乗せて一宮市と羽島市の間を繋ぐ渡し船が木曽川を運航しています。

CBCテレビ「チャント!」2月15日放送より