自民党内の慎重派によって法案提出もままならなかった、いわゆるLGBT法案が、今国会でようやく進展を見るかもしれない。一方で、総理の秘書官がLGBT差別と取れる発言で更迭されるなど、性的マイノリティーへの差別意識は根深い。一般にLGBT法案に反対するのは、“保守”といわれる人たちだ。今回はこの“保守”とは何かを議論した。
「LGBTの問題に取り組んだら、左翼だとか、自民党から出て行けとか言われてすごく驚いた」

稲田朋美衆議院議員。安倍元総理からの引きで政界入り。その安倍元総理をして「総理大臣候補」を言わしめ、安倍政権下で政調会長、防衛大臣を歴任した“保守のジャンヌダルク”と呼ばれた人物だ。
ところが、2021年の総選挙の目前にした時期、保守系メディアがこぞってバッシングを始めた。“いつからわきまえない女に” “稲田朋美が左翼の餌食となった”などの見出しが躍った。更に、選挙では落選運動が巻き起こった。
発端は2021年、稲田氏が「LGBT理解増進法案」推進の立場を明確にしたことだった。
ある雑誌は“LGBTで残念な稲田朋美氏”と揶揄し、選挙期間中、支援者のもとにはこんなハガキが届いた。「稲田朋美前衆議院議員に投票するのはやめていただきたい。…この法案は、性転換手術をしていなくても“私は外見上男でも心は女性なので、女子トイレ・女子更衣室・女子風呂に入ることを求めることができる”法案なのです」
加えて、“#稲田朋美落選運動”と書かれた車が走り回った。

自民党 稲田朋美 元政調会長
「私は自分では保守だと思っている。みんながすべての人が大切にされる社会を作る。それは保守が謙虚であることの表れなので。(中略)もともと歴史認識や靖国問題から政治の世界に入ってきたので、LGBTや未婚のひとり親問題に取り組むようになったのは後から…。これが保守と相反するというのはビックリ。だって、憲法改正にも、防衛問題にしても靖国の問題にしても、何にもぶれてない。なのに、LGBTの問題に取り組んだら、左翼だとか、自民党から出て行けとか言われたことにすごく驚いたんです。自分が正しいと思っていたから。落選運動は共産党系からだったので、右からも左からもやられた。今回は落ちるかと思った」

稲田氏を政治の世界に誘ったのは安倍元総理だった。目をかけてくれていた。その安倍氏からは、LGBT法案推進に係わって大丈夫か、と心配されたという。
自民党 稲田朋美 元政調会長
「(安倍氏から)推進するのをやめろとまでは言われなかったですが、今まで(稲田が)やってきたことで保守系の人たちは君のファンなんだから、“和解すべき”といわれた」
2年前、超党派でLGBT理解増進法は提出間際まで行ったが、自民党の総務会でそれが了承されずに、結局提出することができなかった。自民党内で法案を通さないように強く言っていたのは、他でもない、これまで稲田氏を支えていた安倍元総理だったという。
毎日新聞 古賀攻 専門編集委員
「稲田さんが神道政治連盟の国会議員懇談会の事務局長を突然更迭されたっていう事件が2年前にあって、その時、党内での立場が厳しくなったと感じた。(2年前LGBT法案が提出もされなかったのは安倍氏の影響か?)それは事実としてそうだと思う。安倍さんがストップをかけた。この法案を成立させることが岩盤保守を抱える安倍さんにとっては不都合なところがあった…」

落選運動にもかかわらず、稲田氏は選挙で、前の選挙以上の得票数で当選した。しかし、自民党内ではレッテルを張られたままだ。LGBTはそれほど触れてはいけないテーマだったのか?
一橋大学大学院 中北浩爾 教授
「私ある保守の方から聞いたんですが、“保守系”と色分けされるにはいくつかの項目がある。
“靖国に行く” “夫婦別姓に反対” “女系天皇に反対”そういうメニューがあって、そのひとつに抵触したんでしょうねぇ。安倍晋三回顧録にもこうある『保守派の論客が私を支持しているのは強みでした。ジャーナリストの櫻井よしこさん、評論家の金美鈴さんとはできるだけ会い、意思疎通を重ねるようにしました』」