「天下の奇祭」、愛知県稲沢市の国府宮(こうのみや)はだか祭(まつり)。

ことしの「神男(しんおとこ)」は、愛知県あま市で建築業を営む、矢澤謙二(やざわけんじ)さん(41)でした。どんな思いで、儺追殿(なおいでん)を目指したのでしょうか。

1月23日、神男を決める選定式で矢澤謙二さんは5人の中で一番くじを引き当てました。


(ことしの神男 矢澤謙二さん)
「世の中もコロナで元気がなくなっている中で、役を全うして世の中が少しでも良くなるように頑張りたいと思います」

神男になって最初のおつとめは、頭を丸めること。神男は眉毛以外のすべての毛をそり、生まれたままの姿になるのが習わしです。

自宅で待っていたのは、いっしょに暮らしている美保子さん。

(美保子さん)
「ちょっと最初は誰かわからなかったです。本当に神様が来たのかと思って」


祭のクライマックスとなるはだか男の「もみ合い」。「神男」に厄(やく)をあずけようと、数千人が押し寄せるため、危険と隣り合わせです。このため、数人の護衛役が神男を取り囲んで連れていきます。

けが無く儺追殿にたどり着くため、もみ合いの中でどうすればいいのか。かつて神男を経験した2人に振る舞い方を教えてもらいました。



(経験者)
「みんな(神男に)触りたい、本当に死に物狂いで来る。圧がすごい」

(神男 矢澤謙二さん)
「触ってもらおう…ではダメですよね?」

(経験者)
「身を守ることを考えた方がいい」

過去、もみ合いに加わった経験が一度もない矢澤さんが、なぜ神男に志願したのか?

(神男 矢澤謙二さん)
「子どもが4人いましたし、奥さんとももう25年ぐらい一緒にいたんですけど、ちょっと離婚することになってしまったので、それが本当に前厄の年だった」

おととし離婚し、妻や子どもと離ればなれに。さらにその前の年に、経営する会社が火事になってしまいました。

(神男 矢澤謙二さん)
「ここで何かを経験したことによって、新たな世界を見ることができれば」

祭に備えて3日間、儺追殿に入る「おこもり」の前日には。

(美保子さん)
「近くで見て『大変そうだな』というのはあるんですけど。正直本当ここまで大変と思ってなかったんで」

3日間、「白米」「たくあん」「白湯」しか口にできない矢澤さんのため、食卓には矢澤さんの好きなコロッケをはじめ、美保子さんが作った手の込んだ料理が並びました。

「いただきます」
「うまい」

(神男 矢澤謙二さん)
「みんなが楽しみにしていて、そこで主役をやらせてもらえるっていうのは本当に大きなことだなと思います」

1月31日、迎えた「おこもり」の日。出発前にいったん、「俗世間との縁を切る」、これが習わしです。

(神男 矢澤謙二さん)
「無事に儺追殿に上がって帰ってくるまで、一旦縁を切るということなので。今までありがとうございました。頑張ってまた戻ってくるので、また笑って一緒に暮らしていきたいので、今後ともよろしくお願いします。一旦行ってきます」

神男の証である「差定符(さしさだめふ)」を持ち、ゆっくりと参道を進んで「おこもり」に入りました。

(神男 矢澤謙二さん)
「無事に(儺追殿に)上がって、皆さんの厄を落として暖かい春が迎えられれば…」