小説「荒地の家族」で芥川賞を受賞した仙台市在住の佐藤厚志さん。先週末、仙台に戻り、23日から勤務先の書店に出勤しました。受賞の陰には、佐藤さんを支えた友人の存在もありました。
5日ぶりに勤務先の書店に出勤した佐藤さん。担当する雑誌コーナーで商品の整理や本を陳列するなど開店前の準備を行いました。

佐藤厚志さん:
「まだ落ち着かないんですけど少しずつ日常に戻っていければ。本を知っていらっしゃっている方がいると思うので、できるだけ気持ちよく手に取ってもらえるようにしたい」

宮城県出身者として3人目の芥川賞受賞となった佐藤さん。21日、tbcのインタビューで改めて受賞の喜びを語りました。

佐藤厚志さん:
「家に電報とかお花が届いていたので、家族だけじゃなくて親せき、近しい人も喜んでくれていた」

受賞した「荒地の家族」は、東日本大震災の被災地、宮城県亘理町を舞台に、津波で仕事道具を失った植木職人の主人公が妻を病気で亡くしもがきながらも、生活を立て直そうとする物語です。

佐藤厚志さん:
「普通にまじめに仕事して、日常を大切にしている人間を生活者の目線で描けたらなと」
仙台に戻り開かれた会見では、東日本大震災を描く思いについて語りました。
「一人の死というのが、何人もの死なんだと。そういうところで漏れてくる気持ちとかはいっぱいあると思う。どうにかそういうのをすくえたらと思って書いている」
会見ではこのほか受賞後に一番印象に残ったことについてこう話しました。
「受賞の連絡を受けた直後に、地元(仙台)から来てくれた友達と顔を合わせて喜んだのが一番記憶に残っています」

東京駅近くにあるビルの室内、窓際で佐藤さんが選考結果の電話を受けると…。

友人:
「電話してる、電話してる!」
「やばいんだけど!」

ビルの窓際で佐藤さんが手で「マル」を作ると、ビルの外にいた友人からは歓声が沸きました。
この時、東京で受賞の瞬間を見守った友人の男性。名前は…。
酒井祐治さん:
「厚志と中学校から同級生の酒井です」

「荒地の家族」の主人公の名前は一文字違いの坂井祐治。そう、佐藤さんは、友人を主人公のモデルにしていたのです。

佐藤厚志さん:
「モデルが中学校の同級生で。モデルというかフォルム、40歳で植木職人の仕事をしているという形だけのモデルではあるんですけど」
酒井さんは居酒屋で佐藤さんの取材を受けたと言います。

酒井祐治さん:
「彼が小説を持ってきてくれて冒頭を読んだら一発目に私の名前だったので、そこで初めて知ってびっくりした。地元の話が盛り込まれているなっていうのも印象的だったので、自分も入り込んでしまう感覚があった」

佐藤さんの苦労を知っている酒井さん。喜びもひとしおです。
酒井祐治さん:
「次の作品が勝負だよねって話もしていて彼自身もすごく悩んでというところもあった。3作目でどんと(賞を)とれて本当にうれしく思います」
芥川賞の受賞で一躍、時の人となった佐藤さん。すでに今後の作家活動を見据えています。
佐藤厚志さん:
「ある意味『書いていいよ』というお墨付きのようなものでもあると思う。宮城県に限らずいろんな所も書いてみたいという欲求はあるが、宮城県の物語は持続して書いていこうと思う」

佐藤さんが勤務する書店では「荒地の家族」が品切れとなっていて、300冊の予約が入っているということです。