身近に起きているプライバシーの問題
プライバシーという概念は抽象的であり、その問題の本質や深刻さは伝わりにくい。そこで、私たちの身の回りで起きている具体的な場面をいくつか挙げてみたい。
(1) 生成AIに入力した情報の行方
業務上の確認や調査が必要な事項、名簿、内部資料などを生成AIに入力した場合、それらの情報の行方について考えたことはあるだろうか。面識のない外部の業者にそれらの情報が記された書類を渡す場面を思い浮かべてほしい。相手はその書類をどのように取り扱うのか、無断でコピーをとらないか、別の仕事に流用しないか、不安になるであろう。
生成AIに情報を入力するということは、これに近い状況を、しかも一日に何度も繰り返していることになる。社内で取り扱っている機密情報や個人に関する情報が外部に漏えいしてしまう事故につながりかねない。
(2) ディープフェイクと「なりすまし」
ディープフェイクと「なりすまし」の問題も意識しなければならない。SNSにアップロードした自分や家族の写真・声が、別人の発言や行動と組み合わされ、本物と区別がつかない動画として拡散される。著名人だけの問題ではなく、一般の人々や子どもまで巻き込まれる事案が、今後さらに増えるおそれがある。
顔の画像や声は、それ自体が個人を識別しうる情報であり、個人情報保護法に基づいて保護される対象でもある。本人が同意していない提供や、本人になりすました情報の流通は、プライバシー侵害であると同時に、社会の信頼の基盤を損なう問題でもある。
顔や声は、その人を最も端的に表す情報そのものであり、それが本人の知らないところで別人として動かされる事態は、単なる情報の漏えいを超え、人格そのものへの侵害ともいえる。
(3) AIによる審査とバイアス
人材採用の選考、金融取引の審査、保険料の算定など、人生の岐路でAIが判断を下すケースが増えている。便利な反面、過去のデータに含まれていた偏りをAIが「学習」してしまい、特定の属性の人が知らないうちに不利に扱われるおそれがある。
プライバシーとは、自分に関する情報を秘匿することにとどまらず、自分の情報をどう扱われるかを自分で決め、自分の人生を自分で選び取っていく権利でもある。誰がどのデータをもとに自分を評価したのかを知ることもできず、結果に反論することもできない。そのような状況は、「自己決定としてのプライバシー」の侵害といえる。
(4) 子どもとデータ
ゲーム、オンライン学習サービス、SNSなど、子どもたちが日々利用するサービスは、本人が理解する以上に多くのデータを集めている。子どもから個人情報を取得する場合の問題として、これまでは、事理弁識能力の観点から利用目的などを適切に理解できない状態で情報が取り扱われることへの懸念が、一般に認識されてきた。
しかし、AI時代における子どもの個人情報保護の本質は、長年にわたって蓄積され続けるデータが、将来どのような形で使われるか、現時点では誰も完全には予測できないことにある。今日の何気ない入力が、十年後、二十年後の本人の進路や評価に影響を及ぼす可能性すら否定できない。














