■「社長に言ったら解雇されちゃうよ」できなかった相談
「払ってもらえるよう社長に言おう」。憤るガーさんをベトナム人の先輩が引き留めた。「社長に言ったら解雇されちゃうよ」。ガーさんたちは、来日前にベトナムの送り出し機関に約100万円の借金をして支払い、来日している。こうした借金を背負うことはベトナム人技能実習生にとって珍しくない。
ガーさん
「解雇されるのは怖かった。借金が返せなくなると困る。やむを得ず、悔しかったので監理団体に相談しようと思いました」
監理団体とは、勤務先の会社から中立の立場で、技能実習生のトラブルや悩みを聞き、問題があった場合には、会社を指導する機関だ。異国の地日本で、実習生にとって本来頼りになる存在だ。しかしガーさんたちは、この監理団体を頼ることはできなかった。
ガーさん
「調べたら監理団体の代表と、私たちの工場の社長は同じ人だった。これでは相談しても意味がないと思った」
そんなことがあるのだろうか?実際に工場を訪ねると、確かに工場の入り口のすぐ横に監理団体の掲示があった。同じ建物に2つの団体が入っていたのだ。

登記を調べると、監理団体の代表と会社の社長も同じ人物。会社と監理団体、書類上は2つの組織が存在するように見えるが、実態は同一であることがわかった。こうした体制に問題はないのか?出入国在留管理庁によると、現在の法律では「外部監査人」を置くことなどを条件に、実習生を受け入れる会社の社長が監理団体の代表を兼務することが可能だという。ガーさんたちが支援を求めたNPOは、この兼務可能な制度が実習生が相談をしにくく、問題が長期間見過ごされる状況を生み出していると指摘する。
NPO法人日越ともいき支援会 吉水慈豊代表理事
「社長が悪いことをしてても、監理団体の代表が一緒だと注意をしてくれる人がいない。ちゃんと第三者が監理するような制度に変更をする必要がある」
■会社が突然の倒産そして解雇 「息子と一緒に暮らすのは2年のびてしまいました」
2022年9月、ガーさんたちのSOSを受けたNPO法人は労基署に申告し、長期間続いた違法状態はついに明るみに出た。労基署は最低賃金以下の支払いは「労働基準法違反」だとして、未払いの残業代支払いについて会社側と話し合いを始めた。ところがその矢先の11月7日、突然会社が倒産。実習生は未払いの残業代どころか10月の給与すら払われず、解雇されてしまった。その後、なんとかNPO法人の尽力で岐阜県内の3つの縫製工場に転籍することができた。しかし、未払いの残業代は取り返せず、一部の実習生は借金を抱えたままだ。
「仕方ないのであと2年、日本で働く予定です。息子と一緒に暮らすのは2年のびてしまいました」ガーさんは携帯画面に写る息子を見ながら寂しそうに言った。

■実習生が母国語でいつでも相談できる窓口が必要
外国人であっても日本で働く人は労働基準法によって守られる。賃金は最低賃金が保障される。だが一部の会社では、技能実習生に正規の賃金を払わず安い労働力として働かせているのが実態だ。問題があったときには、早期に実習生自身が声をあげられる受け皿が必要だと感じた。ベトナム人が一般的に使用しているFacebookなどSNSでの母国語に対応した相談窓口があれば実習生がいつでもダイレクトに相談できる。そのような窓口があれば今回のように何年間も苦しむ技能実習生は少なくなるだろう。
TBSテレビ 司法記者クラブ 米田祐輔